二重のまち/交代地のうた 瀬尾夏美 |
ネットで本を買うことも多いけれど、やはり本屋でのセレンディピティは欠かせないということで行った本屋で遭遇した1冊。表紙の絵が印象的だったのと、以前に読んだ「あいたくてききたくて旅にでる」の著者である小野和子さんの帯コメントで買ってみた。とても興味深い1冊に出会えてよかった。
まず構成からして特殊。最初に色鮮やかな挿絵がたくさんある詩があり、次は小説、最後に歩行録という三部構成。抽象度が高い順番に並べられていて、なんとなく津波や東日本大震災のことなんだろうなと察しはつきながら読み進めていくと、最後には著者や著者が話を聞いた各個人の超ミクロな視点にまで到達する仕掛けになっている。同じテーマについて異なるアプローチで表現、思考、伝達していく過程を逆再生しているようでオモシロかった。抽象度が後半にかけて上がっていくと逆に冷めてしまいそうなので、個人的にはこの順番が良かった。一通り読んでもう一度、詩と小説を読んでさらに噛み締めることができる。
この本のテーマである「二重のまち」は決して東日本大地震で被害を被った人だけの話だけではない。災害が後を絶たない日本では全員が当事者になる可能性を秘めている。災害が起こったあとの復興の過程の話であり、その過程で失われていくものに注目しているところがとても勉強になった。(最近の熱海で問題になっていることは日本のどこでも起こりうることを強く感じた)メディアは自分たちの思い描いたストーリーを語っていくが、そこに生きているのは生身の人間であり各人のストーリーが存在する。復興と一口に言っても何をゴールとするのか?元通りにするのか?新しく街を作るのか?正論だけでは片付かない。人間としての逡巡が3つのフォーマットすべてから伝わってきた。考えることをやめたら終わりだなと思う。
やはり最後の歩行録が日記好きとしては好きだった。陸前高田を中心に津波被害にあった方々の生活が見えてくるから。記録の期間は2018-2020の3年間なんだけど、2011年のボランティアから著者は10年間寄り添ってきていて、その視点からの論考もかなり興味深くパンチライン連発だった。
都市にいると、誰のどんなエピソードにも、あーわかる!といった感じで共感は可能なのだけど、お互いのライフスタイルや思想が異なることが前提となり過ぎていて、他者と何か(感情でも環境でも)を共有している感覚は持ちにくい
"当事者"は、さまざまな状況要因や情報によって、いろんなことを諦めながら生活を続けていく。それが、生き抜くための技術だから。でも。そういう"当事者"の諦めを集積していくだけでは、次の災害の"当事者"も同じ諦めを強いられることになってしまうかもしれない。
被災者の認識に関する話は繰り返し登場しているのも印象的だった。自分自身も阪神大震災の被災者で、以前以後では人生が180度変わったといっても過言ではない。当時何も我慢していた意識はないけれど、子どもながらに尋常ならざることに巻き込まれている感覚はあって、そのことを思い出したりもした。誰もが被災者になるかもしれないし、被災者と話をすることもあるだろう日本において必読の1冊。
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