MPC IMPACT! テクノロジーから読み解くヒップホップ /大島 純 |
Kindleのセールで半額になっていたので読んでみた。タイトルどおりの内容でAKAIのサンプラー(MPC・SPシリーズ)の歴史を下敷きにしてヒップホップの歴史が解説されていて興味深かった。ヒップホップの誕生から急激に発展していく流れを描いた本は何冊か読んでいるけど、日本人の方が書いていることもあり、とても読みやすくて頭が整理できた。また新譜ばかりに目が行くけども、温故知新でこういったヒップホップのレガシーを見つめ直すことができて、自分がどうしてヒップホップに魅了されているのか?丁寧に解きほぐしてもらった感覚がある。世代論は展開したくないが、やはりヒップホップの最大の魅力はサンプリングサウンドだなと思えた。(今年出た新譜でもJ.ColeとTyler The Creatorの2人のアルバムが圧倒的に好きだったのはそのパワーを伴っているからだし) そのサンプリングを可能にしたのはMPCとSPシリーズだ。
AKAIの当時のエンジニアやリンドラムの生みの親であるロジャー・リンといったマシンの開発に関するインタビューと、実際の使用者、つまりUSのレジェンド級のプロデューサーのインタビューの両方が掲載されていることでAKAIのサンプラーがどのようにヒップホップに組み込まれていくのか、立体的に浮かび上がっている。知ったようでいて知らないことが山ほどあり、それだけで興奮しまくりだった。特に盲目のスティービー・ワンダーでも直感的に使えるように入力パッドが大きくなりクリック音も付いたという背景は驚愕…まさにそのとき歴史が動いた状態。またMPCがAKAIの日本的な調整型ものづくりとアメリカ的な個人の英知を集結させたモジュラー型ものづくりのハイブリッドであり、その結果素晴らしいモノができたという話はプロジェクトXのよう。またテクノロジーの進歩=サウンドの進歩であることもよく分かる。今も同じ状況だけども、できる範囲が少しずつ広がっていく中でプロデューサー、ビートメイカーの職人たちが試行錯誤しサウンドが拡張していく。特にピートロックが大好きなので、彼のインタビューが多く載っているのが嬉しかった。
ピートロックもプレミアもディラも楽器は演奏できたけどあえてサンプリングにこだわったのはレコードに含まれる空気(イビルディーいわくFUNK…かっけーな、おい!)が含まれているからという話が興味深かった。あとはサンプリングの美学問題…借りるならリスペクトが大事なのでは?という論調はよく分かるけれど、始まりがパクリの音楽だし、この音楽の持つ乱暴さがときに革命を起こすので頭硬くなるのは避けたいなと個人的には思う。とはいえ今のようにソフト音源もほとんどない中でサンプリングであれだけかっこいい音楽を作った先人たちには本当にリスペクトしかないし、自分の人生が変わったきっかけの1つであることは間違いない。AKAIの機材の歴史を通じて、そのサウンドのプリミティブなところを知ることができる個人的良書。
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