2024年2月29日木曜日

赤と青のガウン オックスフォード留学記

赤と青のガウン オックスフォード留学記/彬子女王

 BRUTUSの本棚特集で漫画家のほしよりこ氏が選書しており赤と青のマントの表紙絵が印象的だったので何となく読んでみた。皇族の彬子女王がオックスフォード大学で博士取得するまでを綴ったエッセイでとてもオモシロかった。皇族へのプレッシャーは近年増すばかりだが「人間」としての尊厳をひしひしと感じた。

 皇族が自ら内情を事細かに説明している文章に初めて出会ったので、この時点で本著のオモシロさは保証済みといっても過言ではない。最近は現天皇である徳仁親王による留学記も復刊リリースされているが本著は00〜10年代の話なのでリアリティーがある。たとえば博士号授与式が2011年で震災から二ヶ月しか経ってない中でお祝いのために海外渡航するのはいかがなものか?という意見があった話など。現状の皇族に対する厳しい視線を予期させる内容だった。ただ著者はエッセイストとしての才覚がめちゃくちゃある。硬くシリアスになりがちな皇族の状況についてジョークを交えつつウィットのある文体で書いてくれているので楽しく読むことができた。やはり国外で皇族ではない立場を経験することで視野が広がることは大いにあるのだろう。宇多田ヒカルが活動休止した際「人間活動に専念する」と言っていた意味が本著を読むとよく分かる。何をするにせよ誰かが周りにいて、先回りして全てが用意されていても良いとは限らない。自分でコントロールできる領域の尊さに気づくことができた。

 著者には皇族という特殊な属性があるものの、あくまで本著の主題は5年かけてオックスフォード大学で博士号を取得したことである。海外で博士号を取得する際の苦労話がたくさん書かれていて非常に興味深い。日本だとプリンセスとして扱われるが学位取得の過程において忖度はなく担当教授から厳しく指導されたり、その真面目さゆえに胃の具合を悪くしたり多くの苦労が語られている。その先にある栄光に向かって一生懸命に研究、論文に取り組み、最後に得られるカタルシスを追体験するような気持ちになった。だからこそ最後の最後で皇族ゆえに自分の力でコントロールできない要素で振り回されてしまうあたりは辛いものがあった。彼らは一般の国民とは異なり、多くの特権を持つ代償として犠牲になっていることがたくさんある。歪な環境の中でも自分の信念を貫く姿勢は見習いたいと思った。

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