丸の内魔法少女ミラクリーナ/村田沙耶香 |
以前からタイトルが気になっていて、ついに読んだ。そしていつも通り村田節がこれでもかも炸裂しているとても好きな作品だった。毎回どの作品も質、密度ともに圧倒的すぎる。
タイトル作を含めて中編四つで構成されている。どれもオモシロかったが、やはりタイトル作が好きだった。36歳の女性が子どもの頃のアニメにまだ執着していて、心の中で魔法少女に変身して日々辛いことがあっても乗り切っている。これはギリ可愛らしさがあるものの、この設定から物語がビジランテものへと派生していくのが興味深かった。なぜならSNSなどで散見されるジャスティス・ウォリアーのメタファーだから。仕事終わりに駅をパトロールして困っている人を助ける、と言えば聞こえはいいが、徐々にお節介と言えるレベルまで到達。最初はパトロールがおかしく見えるものの途中で既視感を覚え、それがSNSだと気づく。SNSの場合、たくさんの人がエゴサ含め毎日のようにパトロールしているが現実社会に置き換えるとかなり奇妙だと気付かされる構成が見事。これとかマジ痛烈…いやめっちゃいる!なんならそのYoutuberもいる!
私は男の人が魔法少女になっても全然いいと思うけど、誰かを守るためでもなく、パトロールする快楽自体が目的のパトロールを毎日する大人は、あんまりいないよ。
日常に潜む欺瞞や矛盾を持ってきて、心眼を開くように物語を紡ぐのが毎度のことながら天才的としか言いようがない。
「変容」という話も好きで若者、変化していく社会に順応できるか、そもそも順応する必要があるのかという命題をめぐるお話。周囲が怒りの感情を失っていく中、怒りこそが人生のエナジーと言わんばかりの主人公の祈りみたいな感情と行動に心を持っていかれた。そんな意固地な主人公に対して夫が放つ言葉も痛烈だった。
「大丈夫。僕たちは、容易くて、安易で、浅はかで、自分の意思などなくあっという間に周囲に染まり、あっさりと変容しながら生きていくんだ。自分の容易さを信じるんだ。僕たちが生まれる前からずっと、僕たちの遺伝子はそれを繰り返して生きてきたじゃないか」
文庫版だと藤野香織さんによる解説が村田沙耶香論としてキレキレだったので著者の小説が好きな人はマスト!
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