名もなき人たちのテーブル/マイケル・オンダーチェ |
夏の読書を”Summer Reading”と称したムーブメントを見かける中で、個人的には夏はデカめの海外小説を読みたい気持ちがあり本著を読んだ。『戦下の淡き光』も読んだマイケル・オンダーチェ。詳しい中身を知らずに読んだけど、メインの話は子どもたちが夏の間に客船でスリランカ→イギリスへ旅する話ではからずも夏ドンピシャ。そしてオンダーチェ節炸裂で哀愁ある小説でオモシロかった。
主人公は11歳の少年で、母が待つイギリスへ客船で移動するあいだに船上で起こるさまざまな出来事が描かれている。興味深いのは全部で59章ものチャプターが用意されていて語り口がかなり断片的なところ。船旅のエッセイのようにも読めるし海外ドラマを見ているときの感覚に近いところがあった。子ども同士の友情、甘酸っぱい恋、よくわからない大人との交流、はたまた悪事に手を染めてしまったり。少年が経験する「一夏の何か」が凝縮されており自分の子どもの頃と重ね合わせて楽しんだ。タイトルが示すように名もなき人との何気ない時間の積み重ねが人生を形成していく。本著を読むとそれがよく分かる。直接的に言及しているラインを以下引用。
面白いこと、有意義なことは、たいてい、何の権力もない場所でひっそりと起こるものなのだ。陳腐なお世辞で結びついた主賓席では、永遠の価値を持つようなことはたいして起こらない。すでに力を持つ人々は、自分でつくったお決まりのわだちに沿って歩みつづけるだけなのだ。
僕たちは、ささやかだが大事なことを理解した。じかに関わらずに通りすぎていく、興味深い他人たちのおかげで、人生は豊かに広がっていくのだ。
子どもの頃のエピソードの合間に、登場人物が大人になってからのエピソードが挟まれていてる。この大人篇のビターさがとても好きだった。特に子どもの頃は場当たり的な対応が多いのとは対照的に、大人の話は選択の積み重ねが見えてくるから。この構成こそが小説全体の味わいを増していると思う。『戦下の淡き光』も同様だったけど、サスペンス要素をしっかり用意してエンタメ的に楽しませつつも人生の深淵にも物語としてタッチする。この満足度は並の作家では得られない。鮮やかなコバルトブルーの装丁の美しさも含め最高の夏の読書だった。
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