夏のヴィラ/ペク・スリン |
毎日信じられないくらいに暑いので読書でも涼を求め「いつかの夏に読もう」と決めていた本著を読んだ。タイトル、ジャケからして優雅なリゾート小説かと思いきや、女性を主人公とした非常に繊細な感情が綴られた素晴らしい短編集だった。
著者はほぼ同年代の韓国の方。韓国の小説を読むのが久しぶりで、こんなに近い感覚を抱けるのかという改めて驚きがあった。欧米などの小説を読んでいるときには客観視している場面が多いが、本著を読むあいだは主観的に読んでいることが多かった。各短編はすべて女性が主人公。様々な世代の女性がそれぞれの人生のフェーズで直面する変化とどう向き合って生きていくのか?といった話が多かった。変化とその後に残るもの的な。例えばいくつかの短編ではソウルの街の変化(再開発)と人間の変化を重ね合わせており、つまりは古い関係、古いものとの別れや断絶。こういった変化の中で起こる感情の微妙な機微を繊細な文章で丁寧に表現しているのが印象的だった。ベタでウェットな感情が露呈するギリ手前なんだけど読後には確かに心に残る…本当に絶妙なバランス。メタファーなどを含めてストーリーだけではない魅力もふんだんにあった。
女性ゆえの生き辛さ、性別役割に関する言及もテーマの1つとなっている。近年の韓国小説のムードとしてそれらに抗うものが多くあるが本著は逆でその役割を呑み込む登場人物が多い。その中でパッシブな人生を少しでもアクティブにするために飛躍する瞬間があって希望を感じた。もう1冊短編集が邦訳されいるようなので読んでみたい。
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