キッチン/吉本ばなな |
著者の新刊リリースの情報が目に入り、そもそも一冊も読んだことないなと思って代表作から読んでみた。(粋な夜電波リスナーとしての親近感は以前から持っていた)概念としての「孤独」ではなく、本当に身寄りの人がいなくなる「孤独」との対峙にまつわる本でオモシロかった。
文体の独特の軽妙さとそれによる抜けの良さによって、話の重さや不思議さが優しいニュアンスになっているのが特徴的だと思う。家族を失い孤児になった主人公が身を寄せる家族が日本従来の家制度とはかけ離れた形(シングルかつトランスである母(元父)とその息子)である点が興味深い。1987年のリリースで、このジェンダー観はかなり進んでいるなと思っていたが、学術的な考察を読むと、キッチンを女性に縛り付ける性役割のニュアンスを感じている海外の方もいるらしい。個人的には逆の印象。この論文の著者の考察も同意見で、性役割ではなく人間の活力の源である食事、そしてそれを準備するキッチンが彼女が再生する一助となっていると思う。日本は家庭料理のカルチャーが色濃く存在し、血の繋がりはなくても共同体としての家族が形成される際に食事が担う役割の大きさや安心感が軽やかに言語されていると感じた。他の作品も読んでみたい。
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