前作のわたしたちが光の速さで進めないならが好きだったので期待していたキム・チョヨプの新作。前作は短編であり物語を通じた社会に対するいろんな彼女の視点を感じた。一方で本作ではミステリー仕立てになっている点もあいまってストレートな物語の面白さがあった。
ポストアポカリプスものはSci-fiのテーマとしては王道だけども、その原因がミクロな物質および気候変動とという設定が興味深い。本作における「ダスト」はミクロかつフィジカルに人間を攻撃する厄介なもの。(黄砂が毒性持つイメージ)本著はコロナ禍で書かれたそうで、ミクロな物質の王道としてよく使われるウイルスだと現実からの飛躍が少ないからか「ダスト」という設定なのかもしれない。その暗澹たる環境の中で世代、国籍の異なる女性たちがストラグルする話がメインで、それを追いかける韓国の現代パートという構成になっている。
前半はダスト事変以後の世界でダストの研究を続ける韓国サイドの研究者の話が中心で、そこでは「研究」することの是非が描かれていた。日本だけに限らずCP、TP的な価値観の跋扈は進んでいるのだろうか。特に「研究」というのはすぐに結果が出るものではなく、時間をかけてこそ意味があることをにじませていた。後半にかけてはタイトルにもある本作最大のキーワード「温室」およびそこで育てている植物の謎へフォーカスしていく。ここが完全にミステリー仕立てでエンタメとして単純にオモシロかった。人間のコントロールによる結果とはいえ起死回生の一打が植物にあるというのは2023の今だと現実味を感じられた。ポストアポカリプスものに共通する「人間は己の驕りを知るべし」という教訓がそこかしこにあってコロナ禍を経た今だと考えさせられることも多い。そしてまさかの恋物語も切ない話だった…あと全体に著者の語り口の柔らかさでまろやかになっている気もした。セリフではあるもののたとえばこんなラインなど。対談本が出ているそうなので、そちらも読んでみたい。
懐かしさと痛みは、いつも同時に訪れる。みんながみんな、それに耐える必要はないものね。
心も感情も物質的なもので、時の流れを浴びるうちにその表面は徐々に削られていきますが、それでも最後にはある核心が残りますよね。そうして残ったものは、あなたの抱いていた気持ちに違いないと。時間でさえもその気持ちを消すことはできなかったのだから
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