春の庭/柴崎友香 |
日本の小説家の本を最近読んでいなかったところに今村夏子の衝撃があり、自分が知らない世界がまだまだあることを痛感して以前から気になっていた著者の作品を読もうということで読んだ。こんなに何でもない話なのに小さな機微の1つ1つにグイグイ惹かれる感覚でオモシロかった。
街・家と人の記憶の関係性というのが大きなテーマとしてあり、縦軸の時間、横軸の場所を変数として登場人物たちの思考が展開していくところがオモシロい。同じアパートの住人同士で交流があるのは非現実的に感じつつも、程よくドライな上で1つの目的に向かって最後収束していく点が好きなポイントだった。
本著を読むと自分が過去に住んでいた街・家を思い出し、その頃をレミニスする時間が必ず生まれる。しかも自分がすっかり忘れていたような些細なことを。これは小説にしかできないマジックだなと感じた。
また東京の街の記憶としての話でもある。世田谷区を舞台として貧富の差がある中で共生しているのが徐々に瓦解して再開発で均一化していく、その前段の空気みたいなものがパックされている。表題作が発表された2014年はここまで世界が様々なレイヤーで「分断」するだなんて想像もつかなかった。
文庫版は堀江敏幸氏による解説がついている。久しぶりに「小説を読む」という行為の奥深さを突きつけられて、ここまで散々書いてきたものの結局何も分かっていないのかもしれないと気持ちを引き締めることになる最強すぎる解説だった。それはともかく他の作品も読んでいきたい。
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