あひる/今村夏子 |
最近立て続けに今村夏子を読んでおり、その流れで読んだ。「星の子」「こちらあみ子」と読んできたけど本著も間違いなくオモシロかった。毎回心の奥深くをサクっと刺してくるところが本当にかっこいいと思うし間違いなくテン年代を代表する日本の作家の1人だなと三作読んで感じた。(マジで今更だと思いますが…)
表題作がとにかくパンチ効いててめちゃくちゃ好きだった。庭にあひるを飼い始めた三人家族の娘の視点で物語が展開、学校帰りの子どもとあひるが楽しく戯れる微笑ましい展開から一転して、あひるの体調が悪くなり、いつのまにか別のあひるになっている。けれど、子どもたちには病院で治療してきたと伝える。このギミック1つでここまで不穏な物語にできるのが著者の筆力としかいいようがなくて圧倒された。大人のちょっとした欺瞞に対して子どもの視点をぶつけて、その矛盾をジリジリ炙り出すことに関して右に出る者がいないと思う。しかも、それをやだみなくカラッとしたエンタメにしてくれているのだからたまらない。このバランス感覚が著者がスペシャルな理由だと思う。
また3作品読んで「貧困」が大きなメインテーマとして著者の中にあることも分かった。日本における総中流社会は終わりを告げていて格差社会真っ只中の今、貧困下にある子どもの視点で物語を綴ることで時代を反映していると言えるだろう。また大人視点ではなく子ども視点で貧困へのある種の屈託のなさを描いているのも白眉。単純なかわいそうな不幸話に回収するケースが多いと思うけど、貧困はある種当たり前のものとして眼前に存在する視点で語りながら、読者が想像を膨らませることのできる絶妙な余白があることで物語が豊かになっている。まだ読めてない作品があることが嬉しくなる感覚が久しぶりで本当に出会うことができて良かった。
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