こちらあみ子/今村夏子 |
今村夏子作品を順番に読んでいく中で、映画「花束みたいな恋をした」で印象的に使われていた本著を読んだ。劇中で引用されていた「ピクニック」もオモシロかったのだけど個人的には圧倒的に「こちらあみ子」が好きだった。暖かそうな雰囲気なのにめちゃくちゃドライ、このギャップに終始魅了され続けてあっという間に読み終えた。
主人公のあみ子がひたすら孤独なところが魅力だと思う。孤独であるにも関わらず、それを特に気にしない純粋さに心を強く揺さぶられる。社会に適合しようとすると、どうしても自分と社会の間にある齟齬に折り合いをつけて生きていくことになるけど彼女は周りの目を気にせず自分の思うがままに行動する。継母の流産をきっかけに家族が瓦解するところからすべてが始まっていき、それに対するあみ子のリアクションは間違っているけど間違っていない。こういった大人が忘れてしまった、あえて忘れた心の柔らかい部分だけを取り出して人間にした、みたいな。そういった存在を著者の絶妙にリアルな子ども描写(自分が子どもだった頃とどうしても重ね合わせてしまう)もあいまって物語にグイグイのめり込んだ。また方言による会話も新鮮で方言ならではのニュアンスやグルーブがあり読んでいて心地よかった。あと辛い場面だとしても方言で何となく緩和される効果もあったと思う。
関係性の表現としてトランシーバーが登場するのも意味深。ニコイチで機能する道具が1つしかないことで孤立をさらに深める表現になっていると思う。またあみ子が世界に対して素直な疑問を投げかけたとしても誰も応答しない、という遠い隠喩になっているようにも感じた。そして既存の家族観を暗に全部ぶっ壊していく最後の展開も痛快だった。これも間違っているけど間違っていない。
文庫版のあとがきには町田康、穂村弘の二大御大が顔を揃えて絶賛、特に町田康のあとがきは人生で読んだあとがきの中でもベストオブベストだったので読み終えた後は最高の気分だった。
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