2022年2月20日日曜日

ウィトゲンシュタインの愛人

 

ウィトゲンシュタインの愛人/デイヴィッド・マークソン

 印象的なカバーが前から気になっていたところ図書館で見かけたので借りて読んだ。完全に新しい感覚…途中何回か心が折れそうになるものの終盤にかけて加速度的にオモシロかった。新進気鋭の作家かと思いきや1988年に発表された、しかも著者のデビュー作品らしく、そこにもびっくりした。世界にはまだまだ知らない本がたくさんある、その豊かさを享受できた。

 あらすじとしては、ある女性が世界最後の1人の人間で終末の世界をサバイブしているというもの。このあらすじであればさまざまな場所へ冒険に行ったりして物語の起承転結を付けていくと思うけど、本著は主人公が日々の生活、彼女の思考をタイプライターでタイピングしたドキュメントを読んでいるという設定。移動する描写は多少あるものの読者は主人公の思考のフローをひたすらトレースしているような感覚になる。しかもそこで展開されるのは中世の美術、哲学、音楽に関する膨大な固有名詞にまつわる論考。マジで一体何を読んでいるんだ…という瞬間が幾度となく訪れるのだけど、何となく読み流していくとそこにグルーブが徐々に生まれていくのが新鮮な体験だった。タイプライターというのがミソで文章が一方通行で修正されないがゆえに、ひたすら垂れ流しになっている。これは完全にTwitterにおけるツイートだ!と気づいてからかなり読みやすくなった。

 あとがきにもあったけど固有名詞について真剣に一個一個調べても物語内では適当言っているケースも多い。それ自体が著者の態度というか世界の不確かさの表現の一つなのかもと思った。世界で最後の1人になったら?という妄想は皆一度はしたことあると思うけど、美術館でめちゃくちゃするという発想はなくて、そのシーンが特に好きだった。あと終盤に第四の壁を破るような展開が用意されていて、それもタイプライターの設定が効いてきて興味深かった。自分のコンフォートゾーンを打破する読書体験!

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