2024年6月21日金曜日

きょうのできごと

きょうのできごと/柴崎友香

 保坂和志のプレーンソングを読んだ後に著者の作品を読みたくなって読んだ。解説も保坂氏が担当しており、それも納得の青春日常系小説でオモシロかった。大阪で大学生活を過ごし今は関東に住む身からすると懐かしさもあいまって望郷の念も抱いた。

 京都に引っ越した大学生の引っ越しパーティーの一夜をメインにその前後を描いた話。本当にどこにでもありそうな男女のたわいもない会話が続いていく。三人称で群像劇として描くのではなく一人称の複数の視点で構成されているのが特徴的で各登場人物に対するイメージや当人が思ってることを主観で直接知れるので三人称の客観的視点よりも没入しやすくなっている。

 増補新版では本編のつづき、さらにそのつづきとエピソードが追加されている。映画化されたことを踏まえて現実とフィクションの境目を溶かしていくスタイルが読んだことないタイプでかっこよかった。この手の追加エピソードは蛇足になりがち。しかし、カメラに撮られることに対する著者の考えだったり、映画という新たな視点の話が導入され、さらに保坂氏の解説も視点にまつわるものであった。こういった内容が加わることで小説におけるフレーミングとは何たるかを知ることができる最高の良著と言っても過言ではない。日常系と一言でいってもそのスタイルは千差万別であり、その視点の置き方で個性を表現する、そんな小説の奥行きを楽しめる作品だ。個人的にそれを一番感じたのは中山という登場人物が高校時代を回想するシーン。モラトリアム小説において主人公が教室の窓際の席で遠くを見ているというステレオタイプを裏切り、教室中央の座席から友達二人が窓際で外を眺めているのを見ている描写が印象的だった。読めば読むほど発見がある著者の小説はやはり大切に少しずつ読みたい。

0 件のコメント: