2024年6月7日金曜日

服は何故音楽を必要とするのか?

服は何故音楽を必要とするのか?/菊地成孔

 定期的に欲する菊地成孔氏の文章ということで読んだ。2004〜2009年のファッションショーでかかっている音楽とファッションに関する考察。読んだことのない切り口で非常に興味深かった。

 ファッション誌で連載していたコラム、パリコレ取材記、ショー音楽家へのインタビューをまとめた作品となっている。コラムの冒頭には挨拶が毎度書かれており、これが粋な夜電波ファンからすると番組冒頭の口上を彷彿とさせるものがあり懐かしい気持ちになった。音楽やファッションのモードといった目に見えないものを言語化するスキルは天下一品だと本著で改めて認識した。ハイブランドのファッションに全く明るくないが氏の独特の表現に魅了される。また取材記は別のベクトルで日常の様子をおもしろく読ませる筆力があってこれまた楽しい。人によってはイキってると思うかもしれないが、このイキりを味わいたくて読んでいるところもある。

 ファッションショーの音楽は極めてDJ的で服、モデルに合わせた空間作りの一つとして大きな役割を果たしている。その音楽に対する並並ならぬ熱量で考察、ブランドごとに全く異なる音楽へのスタンスを逐一言語化しておりファッションショーにおける音楽のあり方を相対的にマッピングしているのがとにかく興味深い。また副題になっているとおりモデルのウォーキングについては音楽のテンポとの一致、不一致が生み出すムードの話。考えたこともない切り口で新鮮だった。特定の空間でかかる音楽という観点では飲食店や美容院のBGMが気になることが多い。たとえば安易にビートルズばっかりかかっていると、その没個性な選曲がすべてに影響しているのでは?と偏見を抱いてしまう。ストリーミングサービスが普及し何でも再生可能となり、プレイリスト文化が発展した現在、特定の空間でかかる音楽は常にスタンスの表明が求められる。ゆえに今こそ本著のような音楽とムードの関係性を深く考えている本は重要な意味を持つと言えるだろう。

 記録としても貴重で特にKanye Westとファッションの関係性をハイブランド側の視点から考察している点が興味深かった。今となってはYEEZYは当たり前の存在だが、その前にはパリコレなどに足繁く通っていた時代がある。ファレル含めそこからヒップホップがファッション業界をテイクオーバーする前日譚としてオモシロかった。まだ読んでない著作はあるので少しずつ楽しみたい。

0 件のコメント: