ギケイキ/町田康 |
3巻リリースの知らせをネットで見て何となく1巻を読んだら、信じられないくらいオモシロかった。元来理系で日本史に対して、どうしても苦手意識があり歴史小説にはなかなか手が出なかったけど、それをすべてひっくり返されるくらいの強度があった。
原作は『義経記』と呼ばれる全8巻から構成される室町時代に書かれた作品らしい。それを解釈して町田康節でスクラップ&ビルドしているのだけど、そのスタイルが極めて異質。義経自身が語っている人称かつ、彼が現在でも生きているという設定からしてぶっ飛んでいる。この設定ゆえに当時の場所を「現在の場所で言えば」という言い換えが可能となり読者の理解が進むようになっていた。最大の特徴は文体、ひたすら口語の文体が続く。口語と言ってもその砕けっぷりは想像の100倍であり若者の軽いノリとでもいえばいいのか。友達から話を聞いているのかと思うレベルなのがとにかく最高。設定、文体がすべて現在視点であるがゆえに歴史小説にありがちな堅苦しさが1mmも存在しないので読む手が全く止まらなかった。あと関西弁もキツめで著者の他の作品でも見られるバイブスを古典に落とし込むとこれだけ跳ねるのか?!というくらいにハマっていた。
当時と現代の風俗や考え方におけるギャップの表現がオモシロく、特に何か気に入らないことがあったときにすぐに「殺そか?」「殺しといて」と言う場面や、実際の殺害描写など大変物騒なシーンが連発するのだけども「鎌倉時代の争いってそういうことよな」という謎の腑の落ち方をした。大人になって分かる、学校では学ばない歴史のダークサイドがふんだんに詰まっていると言える。(それをユーモラスに思えるのも口語調の文体のおかげ)あと解説でも触れられているとおり、Twitterを「呟き作戦」として当時のカルチャーに落とし込み、街中に貼り紙をすることで噂が広がっていく様を描いているのが痛快だった。つぶやきは真実ではなく噂であり我々は噂を愛する生き物なのだと気付かされた。以下引用。
なぜ人々はそんなに簡単に噂を信じたのか。それは信じないより信じたほうがおもしろかったからである。信じた方がおもしろく、また、話の種にもなり、話すことによって興奮するので、人々はこれを容易に信じた。
弁慶と牛若丸(=義経)の邂逅の有名なエピソードがハイライトかと思うけど、それよりも弁慶の細かな来歴がめちゃくちゃオモシロかった。もうほぼアメコミよ。ハルク。あと二作品あるのでマジで超楽しみ。
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