彼に関する自伝、評伝は色々出ている中で本著はそれらを下敷きにしつつ独自の見立てを当てていくスタイルなのがとてもオモシロい。実際に東大で行われた講義に対して著者の2人が情報をさらに追加して書籍化しているので文体が講義形式になっており授業を受けているようで理解しやすかった。各アルバムに関する解説がかなり深くて今まで何となく聞いていた作品群が頭の中で改めてマッピングされたのが良かった。また当時の評判や現在の視点で振り返って見えることなど多角的な視点で作品を捉えることで何倍も楽しめるようになっている。ジャズは悪い意味でBGMとして安易に消費されがちな日本において、どうやってジャズを楽しむことができるのかという意味でも示唆的な内容がたくさん載っていると思う。
マイルスの音楽は年代によって全くテイストが異なるためにキャリア全体をつかむのがなかなか難しい。ミスティフィカシオン(神秘化)という言葉をテーゼに掲げて、マイルスの掴みどころのなさを解きほぐしていく。陰陽の両面を一つの作品に落とし込むこと、ひいてはマイルスの人格自体も両義性に溢れているのではないか、という大胆な見立てで彼の実像に迫っていく過程がスリリングだった。時代を追いながらどういう変遷があったのかをかなり具体的に解説してくれる。一口にジャズといっても色んなスタイルがあり、50-60年代のマスターピースの数々の中でもオーケストラ作品や定番のクインテット系など、それぞれのカラーやどこがユニークなのか?楽譜なしで著者2人の圧倒的な語彙力により文字で説明されている。またマイルスの音楽の変遷を追うことが結果的に音楽の歴史を追うことになり、アコースティック、エレクトリック、磁化といったテクノロジーの変遷と彼の音楽が変化していく過程がめちゃくちゃオモシロかった。(磁化=テープで録音=編集できる、という視点は編集が当たり前の今となっては新鮮すぎる視点)
マイルスバンドに在籍したことのある唯一の日本人であるケイ赤城のこの言葉は刺さった。音楽家たるものかくあるべし的な。常に新しい要素を取りこんで自分のものとして解釈、アウトプットすることでしか前進できない彼の音楽スタイルの原点とも言える話。マイルスも新しい音楽も聞いていこ〜
マイルスは朝起きて夜寝るまで音楽を聴いているんです。そして、つねに新しいものを聴こうとしているんです。そしてなにかインスパイアされるものがあったら、それがそのままトランペットの音に出てくる。そこで初めて、僕たちはマイルスが今日とんでもない音楽を一日ずっと聴いていたんだなということがわかるんです。
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