ブラック・ノイズ/トリーシャ・ローズ |
ケンドリックのムック本で引用されていて気になったので読んだ。(絶版で入手できないけど図書館で借りた)原著は94年出版で09年に翻訳されたものだけど全然古びていなくてオモシロい。ヒップホップを学術的に記述するとこうなるのかという学びがたくさんあった。
序盤はヒップホップの成り立ちから丁寧にさらっていく流れになっており、レッドアラートが、クールハークが…という大まかな流れは知っていたものの、こういった歴史書のような体裁で読むのが新鮮な体験で楽しい。特に個人的に抜け落ちていた都市論からみたヒップホップの話、つまり産業構造の変化に伴い都市部が空洞化してスラム化したことがヒップホップ誕生の1つのきっかけという話は興味深かった。
今やUSだけではなく多くの国でメインストリームの音楽となったヒップホップだけど、そのルーツの部分を改めて整理された書物で読むとヒップホップの持つある種の野蛮さと世間に叛逆する姿勢に惹かれたんだよなーということを再認識した。(まさにブラック・ノイズ!)楽譜で再現できることを前提にした西洋音楽と何が違って新しくてオモシロいのか、かなり丁寧に書かれているのが良い。社会や政治にコミットするリリックの革新性に注目が集まりがちな中、サンプラーによる音楽製作の衝撃をこんなに理論立てて書いている本はないと思う。テクノロジーがルールを塗り替えたという意味ではインターネット級の衝撃だったのかも。またループする威力が強いドラムやベースをベースにしたループサウンド音楽として認識せず、理解できないので一方的に危険なものと見做していたという話も隔世の感があってオモシロかった。
また著者が女性だからなのか、ヒップホップにおけるミソジニーに対して94年時点でかなり意識的。最後の「悪女たち」という章をまるまる1つ使って女性ラッパーたちがどうやってヒップホップのシーンにおいて自らの立場を獲得していっているのか、歌詞を丁寧に紐解きながら説明してくれている。25年経って変わっていないところもあるし、時代が変わったなと思うところもある。アフリカ系アメリカンかつ女性というダブルマイノリティな立場にある中では、人種差別があまりにも根深すぎてヒップホップのミソジニーな歌詞に対して安易に反対することはできない(=白人女性と安易には連帯できない)というのは目から鱗な話だった。今またBLMの動きがある中、最近はどんな流れなのか知りたいなと思ったら現代思想のBLM特集で訳者の新田氏が寄稿されているようなので読んでおきたい。そして、その訳者のあとがきタイトルが「KEEP IT REAL」なのが最高!座右の銘にした次第です。
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