2021年12月1日水曜日

日本移民日記

 

日本移民日記 /MOMENT JOON

 ウェブ連載が書籍化したので読んだ。他のウェブ記事と同じように流し読むのはもったいないと思って取っておいたので書籍化は大変嬉しい。昨年リリースされたアルバムの製作ノートのようなエッセイでめちゃくちゃオモシロかった。

 10章+αという構成で彼が日本で11年間暮らして感じた違和感、苦しみなどが様々な形で表現されている。ウィットとアイロニーてんこ盛りで、ですますかつ読者に語りかける文体なので読み手にぐいぐい迫ってくる。一番強く感じたのは自分自身が持っている日本人としての権利に対して無自覚なんだなということ。国家の政策として移民を制限していることもあり、周りには日本国籍を持った人がほとんどでその特権が相対化される機会がなかなかない中、彼の言葉で綴られる「外国人」が日本で暮らす苦労・苦しみは正直分かっていないことばかり。何となく社会がスルーしていることを仔細に言葉を尽くして説明している。これはアルバムも同様で彼の提起していることや意見していることは露骨な差別主義者だけではなくて、無関心な人やなんなら「リベラル」を自称する人の心に巣食う無意識な差別の意識の話であり誰も他人事ではないのだと、どの章を読んでも感じた。

 中盤に彼が修論で取り組んでいる楽曲におけるカースワード使用に関する研究もオモシロい。これだけ言葉を定性的・定量的に研究している人がラッパーで、しかもその研究内容を自ら実践しているだなんて!優れたラッパーは他人のラップを貪欲に吸収する姿勢を持っていると思っているので、彼はまさしくそれをガチでやっていて興味深かった。

 あと「在日」に関する考察も自分の理解を深める一助になった。恥ずかしながら昨年「パチンコ」という小説を読んで初めて在日の実態を知った。本著ではある程度成長した大学生として日本へやってきた彼の視点から「在日」を再定義するような論考になっており、またその何重もの複雑な構造は日本社会が構築してしまっていることも知り、うーん…という気持ちになった。そして、ここまで述べてきた読者の気持ちをまるで察するかのようなパンチラインがぶち込まれており、これを言えるラッパーがMOMENT JOONという日本を代表するラッパーだ。

あなたが「何となく分かっている」と思っているものを「それって実はこうなんですよ」とさらに明快に答えるのは、政治家、またはプロバガンダの仕事です。あなたが「何となく分かっている」ものは、実はあなたが想像するよりもっと複雑で敏感です、と理解させるのが芸術家の仕事です。

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