グランドフィナーレ/阿部和重 |
阿部和重の芥川賞受賞作。その表題作に加えて3作の短編が加わっていて神町というおそらく架空の街をキーにしてゆるやかに4つの話が繋がっている。独特のノリがあっておもしろかった。表題作は前半、村上龍のバイブスがあって退廃方向に展開していくのかなーと思ったら、純粋な悪のような描写が続く。つまり言葉の上では自分が悪いことを理解しているものの、ブレーキが効いていないように見える。同じ過ちを繰り返すのか?それとも過去に対する償いなのか?しかも、悪の種類が種類なので不快な人は心底不快だろう。でもギリギリを攻めていく姿勢が最高だなと思う。
2004年の出版でインターネットがこれから広がっていくところ、スマホ以前の世界の話なので牧歌的で興味深いし情報テクノロジー表現がユニークだった。(docomoの携帯の機種名なんて認識するの何年振りなのか…)全体通じて子どもとの別れ、子ども同士の別れを描いており、特に子ども同士の今生の別れの切なさがよく伝わってきた。今はSNSがあるから、この切なさは共感されないかもしれないけど。
2021年の今、読んで一番興味深かったのは「20世紀」という短編。記録社会となった今を予期していたかのような内容だった。スマホの登場により赤ちゃんの頃から写真や動画で記録され、それを多くの人に向けて発信する時代になったわけだけど、そのように記録され続けた人の自意識/時間感覚について書かれていて相当オモシロかった。(記録された過去と記録されていない過去、どちらに焦点が合いやすいか?など)しかもこの短編がSONYのCD-R(記録媒体としてのCDね)の発売に合わせて書き下ろされたという時代を感じる背景なのもあいまって好きだった。
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