現代美術作家である著者の2003-2011年までのエッセイ。1977年のイギリス、制作の本拠地である宇和島、故郷である東京、はたまた夢まで。時代と場所を縦横無尽に横断しながら徒然と日々思っていることが書き記されていた。既存の価値観にぐらぐら揺さぶりをかけられるし、価値の定義が比較的曖昧な美術の世界でサバイブしてきた著者の審美眼の一端を知れるのは貴重なことだと思う。「ザ・エッセイ」なんだけども、僕が著者のエッセイが特に好きな理由は独特の文体と強烈なパンチラインがゴロゴロ転がっていること。いくつか引用。
いつの世も本質はコピーとオリジナルの微妙な狭間にごくわずかな確率で起きる一瞬の出来事の中に薄ら笑いで潜んでいたりする。そうやすやすと良識や常識で捕まえられるほどヤワな相手でないことだけは確かだ。
誰の日常にも淡々と当たり前に訪れる「毎日」という怪物、これに見合う「自分」を与えられた時間の中に貫くこと、それはとてつもなく厚い壁として毎日立ちはだかっている。
結局いつの時代も「信じられる奴」と「信じられない奴」がいるだけでそこには年上も年下もない。「おい!そこのオヤジ、今、お前のできること、キチンと示してみろ!」それだけだ。
このように単純な引用でも威力の高いラインだけどエッセイの中ではさらに光り輝いていた。3つ目は特に自分がおじさんであることを認識しつつ、それに抗いたいという気持ちにビシッと刺さった。傍から見ると役に立たない、無駄や無意味と思われたとしても主観的な価値観を大事にしてそれを貫く。毎度勇気をもらうことができる著者の言葉をこれからも追い続けたい。
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