スクリーンが待っている/西川美和 |
西川美和監督の最新作「すばらしき世界」を制作する際のエピソードを中心にしたエッセイ。映画はもちろん大好きなんだけど監督の文章もファンなのでこうして読めて嬉しかった。
今回の映画は初めて小説原作ありきということもあり、小説から脚本へと昇華させていく過程での様々なエピソードや監督がどういうアプローチで臨んでいったのか細かく記録されていて一体どんな映画になっているのか非常に楽しみになった。また、おそらく見てから読んだとしても「これはあのシーンだな」とか「この人のことか」みたいな答え合わせもできるだろう。したがって、見てから読んでも、読んでから見てもどちらでも良いように個人的には感じた。
「ともだち」というエッセイでは、これまで長年付き添ったプロデューサーから新しいプロデューサーに乗り換えることが書かれているのだけど、それが本当に生々しい内容で読んでてドキドキした。新しい空気を入れなければ次の進化はないし、それに伴い失う安定もある中で、著者が苦渋の決断するところは華やかに見える映画作りはシビアな世界で他の仕事と変わらないのだなと感じた。筆力ということで言えば「異邦の人」が抜群。前作の「遠きにありて」では何度もウルルになったけど、今回は「異邦の人」でウルルだった。日本に来ている技能実習生の話なんだけど、彼らの過酷な環境が問題になっていることは念頭に置きつつ、その中でもたくましく生きている姿が取材含めて丁寧に書かれていて非常にオモシロかったし最後のくだりで泣いた。
公開前ということもあり映画に関する具体的な内容は少ないものの、著者が今回キャスティングした役所広司と仲野太賀の話は興味深くて、特に仲野太賀の話は語られているのを読んだり聞いたりしたことなかったので新鮮だった。
映画はコロナ前に撮影が終わっていたものの、編集作業などはコロナ禍の影響をもろに受けていたようで、その頃どういうことを考えていたか知ることができてオモシロく、これまで読んだコロナ禍における文章で一番刺さった文章を最後に引用しておく。何気ない描写でハッとさせる著者の提示する視点がとにかく好きだ。映画が楽しみでならない。
またスタジオの密室で、朝から晩まで膝と膝をつき合わせながら、人たちと仕事ができるときのことを思うと、それだけで胸が踊るような気持ちだ。私たちは、必ずその日を迎える。それまでは窓外の空に憧れながら、麺を茹でてはネギを刻み、タレをかけて食す日々だ。
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