2026年9月19日土曜日

誓願

誓願 /マーガレット アトウッド 

 『侍女の物語』に続編があると知って読んだ。数十年後の続編ということもあってか、社会状況や著者自身のスタイルの変化もあいまって、前作とはまったく異なる味わいのエデュテイメントだった。

 1作目の舞台となったギレアデ王国のその後を、前作でも主要人物だったリディア小母による手記、2人の若い女性によるインタビューの3つの視点から物語は展開していく。ここでポイントになるのが、2人の若い女性だ。1人はギレアデに生まれ、その思想に染まり切っている。一方、もう1人はカナダからレジスタンスの一員としてギレアデに潜入していく。

 1作目では、侍女が閉塞した、どうにもならない状況を淡々と語る形式だったため、読みづらさや中だるみを感じたことは否めない。それに比べると、本著は格段に抜けがあり、物語のテンポもいい。それは複数の視点が入れ替わりながら、さまざまな角度から物語を転がしている構成の影響が多い聞い。また、ラストにかけて、三者の物語がしっかりと交錯していくことで、物語のカタルシスも生まれている。前半は『侍女の物語』の世界を改めて噛み締めていくディストピアSFの側面が強いが、後半にかけては怒涛の展開で、エンタメ小説として抜群の面白さを発揮しており、ページターナーだった。

 手記とインタビューという構成も興味深い。手記だからこそ過去から現在に至るまでのギレアデの全貌を体系的に理解できる。一方、インタビューでは、回答者それぞれのトーンの違いがオモシロい。おしとやか少女とおてんば少女の対比なのだが、終盤にかけて2人の距離が徐々に接近していく仕掛け方が見事だった。

 やはり本著で一番好きなパートはリディア小母の手記である。彼女が小母になるまで払った犠牲や、国家の中で権力を握るために繰り広げる情報戦はスリリングだった。自分が追い込まれたときに、自らを偽ってでも従順になり生き延びていくのか。それとも、死を賭してまで自らの思想を優先するのか。そんな究極の問いを乗り越えた人間だからこそできる、割り切った処世術は見どころ盛りだくさん。この手記自体が人間としての業を精算していくような側面があり、長い時間をかけて積み重ねてきたものを振り返るなかで、結局、人は収まるところに収まるのかもしれないと思わされた。

 本著は2019年に原著がリリースされたようで、欧米ではBREXITやトランプの大統領就任など、政治的に分断が進んだ季節である。現実が厳しい状況だからこそ、物語内では排他的思想を打破していく理想主義が描かれていると感じた。

 なので、終盤の鮮やかな展開は、ギレアデの悪魔の所業を読んだ後だとやや出来過ぎのように感じなくもない。とはいえ、ここまで救いのない物語を読んだ後だからこそ、これくらいのカタルシスが必要だったのだろうとも思う。

 『侍女の物語』を読んでから手に取ったほうが、その世界の奥行きをより味わえる。ディストピアSFでありながら、後半はぐいぐい読ませるエンタメ性をもった素晴らしいファック家父長制小説だった。

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