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| 侍女の物語/マーガレット・アトウッド |
随分前に早川のセールで積んでおいたのだが、あまりにもクラシックすぎてなかなか読む気が起こらなかった。先日読んだ『未来』のあとがきで、ナオミ・オルダーマンの師匠として名前が挙げられていたので、これは読むしかないと意を決して読んだ。80年代にリリースされた作品ではあるものの、今の時代にも十分通ずる普遍性を持っていて興味深かった。
本著は、オブフレッドという女性が主人公。出生率が低下した社会で「産む機械」として抑圧されながらも、過去を反芻しながら自分の人生を生きようとするディストピアSF。随分前にHuluでドラマ版をS2くらいまで見ていたこともあり、その記憶を補完しながら読むことができた。
映像版は比較的整理されていた一方で、原作である本著は過去と現在を何度も行き来するため、読みづらさがある。しかも、それは明確な意図があって構成されているというより、うつろう意識をそのままなぞっているようで、人の頭の中を直接読んでいるような感覚がある。そして、最後まで読むと、この構成そのもにギミックがあることが明らかになり納得した。
上級国民の家に侍女として仕え、出産することだけを求められる。こう書くだけでも十分グロテスクだが、設定のディテールが細かいぶん、そのエグさはマシマシ。特に性行為と出産における侍女と妻のポジション配置がきつかった…「そういうテイ」という、見た目だけ取り繕って中身は空っぽという状況は、日本社会でもよく見かけるからこそ余計に刺さるものがあった。
「あの頃は良かったな、戻りたいな」と回想するシーンが何度も訪れる。その一方で物語が進むに連れて、彼女や家族の身に何が起こったのか、そしてこのディストピアがどのように形成されたのか明らかになっていく。そうした背景がクリフハンガーとなり、辛い状況が続くにも関わらず、ページをめくる手が止まらないようになっていた。断片的な情報をパズルのように組み合わせて、その世界について想像を巡らせる。そんな小説を読む醍醐味が詰まっている作品だと思う。
男女の非対称性がこれでもかと描かれているが、オブフレッドの財産が没収されてしまった際の、夫ルークの反応が最も印象的だった。男尊女卑丸出しのディストピアに突入する寸前の出来事なのだが、そこで見せるルークの非当事者的な態度には、身に覚えがないといえば嘘になる。ディストピアの中で男尊女卑がわかりやすく展開されること以上に、味方である夫でさえ妻の気持ちを理解できていない状況の方がはるかに辛いように思えた。
前半はオブフレッドの回想も比較的多く、体制に対する不満や怒りが多く見られるのだが、後半にかけては徐々に諦念が支配的となり、自暴自棄な態度が目につくようになる。ここにもリアルさがあり、社会運動を続けていても明確なゴールが見えず、いつしか大志を失ってしまう。権力者たちは支配される側に無力感を抱かせたいわけでそれが機能していると言える。そんな葛藤が以下のようなラインに表れていた。
どんな状態でもいいから生きつづけたい。肉体なら気前良く他人に使わせよう。彼らに好きなようにさせていい。わたしは情けない女だ。わたしは初めて彼らの本当の権力を感じる。
わたしは恥知らずな女になりたい。不謹慎な女になりたい。無知になりたい。そうすれば、自分がいかに無知であるかに対しても無知でいられるだろうから。
2020年にリリースされた「誓願」が続編らしいので、早々に読みたい。

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