昨年の5lackのワンマンで、GAPPERパートの客演として現れたDaichi Yamamoto。そのわずかなパフォーマンスに心を奪われ、「いつかワンマンを見たい」と思っていた。その機会がようやく訪れて、やっと今回見ることができた。
日本語ラップのライブでここまでのクオリティのショウが見られる時代になったのかと感慨深くなった。ラップが圧倒的に上手いことは当然として、ブラックミュージックであるヒップホップのレガシーを現代的な形で体現するショウケース。グローバルに見ても、ここまで完成度の高いライブを成立させられるラッパーは決して多くないだろう。日本語ラップを好きで良かったと心から思えるライブだった。
1曲目は最新アルバム『Secure+』の「Central Line」。まず驚いたのは圧倒的なシンガロング率だった。生音ベースが躍動するドラムンベースの曲で、どちらかと言えば渋めの印象を持っていたが、会場は爆発していた。続く「Orange Juice」でもシンガロング率は圧倒的で、MVになったり、バズった曲だけではなく、アーティストに対する愛に溢れた観客のロイヤリティの高さと熱量に胸を打たれた。
とにかくラップ力がハンパではない。これまで見てきたラッパーの中でも間違いなく五本の指に入るレベルだ。自身の技巧を見せつけるのではなく、キャッチーなバースも複雑なフロウも軽々と駆け抜けていく。その自然体なスタイルは唯一無二だ。個人的には、2026年のベストバース候補であるWatson「スーパーレア」のバースを開始早々に聞くことができて十分満足だった…が、それはこの日の序章に過ぎなかった。
ライブは、キーボード、トークボックスにKzyboost、DJ、マニピュレーターにPhennel Koriander、コーラスとしてMika Arisaka、Bobby Bellwood(ことsauce81)という編成。ヒップホップのライブとしてはかなりトリッキーな編成だが、この布陣こそがDaichi Yamamotoのライブの何倍も魅力的なものにするキーファクターである。
まずは、Kzyboost。トークボックスによる絶妙なアレンジが既存曲に新たな表情を与えていた。特にSTUTS & ZOT on the WAVE「Perfect Blue」はメロウネスが際立っていたし、この日のハイライトの一つである「Wanna Ride」ではトークボクサーとしての力量を存分に発揮していた。オートチューン全盛の時代に、ここまでトークボックスをライブの核として機能させるラッパーは世界的にも珍しい。
そして、コーラス部隊も素晴らしかった。この2人がコーラスを務めていることの贅沢さは、往年のJazzy Sportヘッズであれば共感してくれるだろう。ラッパーのライブにおけるコーラス部隊は不思議な組み合わせに映るが、歌の力は楽曲に奥行きを与えていた。ラッパーが歌うようにラップするようになった結果、シンガーとラッパーが共演するケースは昔に比べて減っているものの、餅は餅屋という言葉のとおり、シンガーだからこその迫力がある。
それが最も顕著だったのは「Brown Paper Bag」である。1stアルバムの曲で、すっかり記憶から抜け落ちてたいのだが、D’Angelo「Brown Sugar」を下敷きにした楽曲の魅力をコーラスが最大限に引き出し、鳥肌が立つほどのグルーヴを生み出していた。
原曲でもMika Arisakaが参加している「なんとかなるさ」では、音源では抑えめだったコーラスがが全開。ダイナミックな歌声が会場に鳴り響き、この曲の持つエモーショナルなバイブスを一層高めていた。他にもgroovemanspot「Power」、STUTS & Julia Wu「With U 」といった曲でも存在感は抜群で、このライブの裏MVPと言っても過言ではないだろう。
客演陣も豪華だった。前半では最近の多岐にわたるコネクションの中で、Kianna、Benjazzyが登場。特にKiannaをこのタイミングで見ることができたことは嬉しかった。後半にかけてはCampanella、STUTS、KID FRESINOといったお馴染みのメンツが登場。Campanellaも含めたSTUTS「Expression」やKID FRESINOとの「Let It Be」など、この日ならではの共演を楽しめた。KID FRESINOとは新曲も披露されており、今後の展開が楽しみである。
客演ではないが、Daichi Yamamotoといえば、JJJとの曲が切っても切り離せない。2人が共作した名盤「Radiant」からは「ガラスの京都」、「OTO」が披露された。特に「ガラスの京都」は批評家・中村拓哉氏のポッドキャスト番組「ひとりりある」でアウトロのスクラッチの元ネタが紹介されており、それもあいまってエモーショナルな気持ちになった。そのスクラッチを担当した、DJ Scratch Niceにシャウトを送るDaichi Yamamotoの律儀さにもグッときた。
DJ Scratch Niceといえば、彼の最新アルバムに収録された「Phase」も披露。JJJの2バース目は彼の死後、より意義深いものになったことを踏まえるかのように、ラップをかぶせることなく、JJJの声が会場に鳴り響いていた。一方で「Taxi」ではJJJのバースまでしっかり蹴っていて、こういった細かな押し引きが、彼のJJJへのリスペクトと、ライブに対する意識の高さが伝わってきた。
キャリアを振り返るようなセットリストを聞いて感じたのは、KMとJJJという日本語ラップを代表するプロデューサーがこれだけコミットしているラッパーは他にはいないということだ。JJJの声によるKMのサウンドタグがDaichi Yamamotoのライブで鳴る瞬間、その三者によるトライアングルほど特別なものはない。それは、この日の会場の熱狂が何より証明していた。
Daichi Yamamotoの最大の魅力は、ブラックミュージックに対する温故知新の姿勢にある。リリックで本人が言及しているとおり、過去や先人に対するリスペクトが多いに持ちながら、自身がミックスという立場も含めて、ブラックミュージックを経由しながら日本語ラップを更新していく力強い意志を作品から感じる。前述のD'Angeloオマージュ然り、「Orange Juice」のフックにおけるOutkast「Ms.Jackson」の引用などは象徴的なものである。ライブの編成も、ラッパーという枠を超え、一人の音楽家として表現を追求するためのものであろう。
アンコールはSTUTSとの「Cage Birds」で大団円。繰り返された<Higher>というフレーズはDaichi Yamamoto自身の尽きることのない向上心そのもののようだった。年明けには武道館が決定したらしく、このスタイルでどこまでも突き抜けてほしい。
0 件のコメント:
コメントを投稿