2025年3月22日土曜日

ニーニとネーネ/好きな人に会う/喜びも悲しみもある今日

 ZINEメンターの植本さんの新作各種がリリースされたので読んだ。いずれも印刷やホッチキス止めなどを自分の手で行う家内工業スタイルのZINEで、ウェブショップで購入可能となっている。

ニーニとネーネ vol.1&2

 飼猫であるニーニ、ネーネの写真集+エッセイ。最初にエッセイを読まずに写真を見たのだが、その存在感に目を奪われた。片目を失い、腫れている中でも懸命に生きようとする猫の生命力が植本さんのカメラで克明に切り取られていた。フィルムカメラの質感がもたらす刹那性もあいまってかなりグッときた。その後、エッセイを読むと写真に関する植本さんの考えが書かれており、文章でここまではっきりと写真に対する考えを読むことが初めてだったので新鮮だった。

 闘病中のニーニだけではなく、ネーネも謎の絶食状態に陥り入院したらしく、猫がいかにセンシティブな生き物なのか思い知らされる。動物と暮らした経験がないが、このように動物が闘病する様を見て、読むと、本当に人間さながらだ。公園に行くと、犬を過剰に人間のように扱っている場面に遭遇して、以前は面喰らっていたが、今となってはそれもわかるようになった。愛玩動物はただ一緒に生きているだけではない、本当の意味で家族なのだなと思う。

好きな人に会う


 阿佐ヶ谷のISB booksで開催された380円の作品販売会「38商店」で売られていたもの。特定の対象に関する植本さんの雑感が、伏せ字込みで綴られている。以前にZINE FESTで一緒に出店させていただいた際に、この話は一度聞いていたが、文章になると起承転結がはっきりしてオモシロかった。自分が信用できるものだけと関わる世界線と、そうは問屋が卸さない現実に逡巡する様は今の資本主義社会に生きる誰しもが抱えるモヤモヤだろう。そんなアンビバレントな気持ちが「避けているものの中で遭遇した好きなもの」という矛盾を通じて、最終的に何かを好きになる、ファンになることの意味に着地していた。憧れの対象に会ったときのリアクションというのは、非常に悩ましい。自意識が肥大している身なので、毎回立ち振る舞いに悩むが、最近は照れずにストレートに感情を伝えればいいかと思っている。

喜びも悲しみもある今日



 こちらは手書きの日記。二月のある日が描かれているのだが、これが今までと感触が異なる日記になっていて驚いた。一日だけ、ということもあってか、日常に対する解像度が相当高く、どこか小説を想起するような日記だった。

 前半のお子さんとの日常生活は、昔から日記を読んでいる身からすると、時間の経過を感じざるをえなかった。多くの「一子ウォッチャー」は、保育ママと同じような気持ちになるに違いない。

 後半では『好きな人にあう』に続いて、今の社会で生きる皆がなんとなく感じるモヤモヤについて書かれており、それが戦争との距離感だ。ロシア、ウクライナ間の戦争において、ドローンを用いた攻撃が行われており「人の命の重さとは?」と考える様が描かれている中で、「目の前の焼きりんごがいかに美味しいものなのか?」も同時に描かれている。これこそ人間だよなと心底思えた。言い方が難しいのだが、今の社会は「戦争が嫌だ」と「焼きりんごが美味しい」は両立しない、どちらか一方を選ばないといけない圧力を感じる場面が多い。自分がポッドキャストでだらだら話しているのは、すぐにまとめてわかりやすくパッケージしようとする空気から距離を置きたい気持ちが多分にある。だから、この非圧縮状態の日常描写の数々にとてもフィールしたのであった。

0 件のコメント: