2024年8月6日火曜日

圏外編集者

圏外編集者/都築響一

 古本屋でサルベージした。今ZINEを作っている最中なのだけども、そのタイミングで読めて良かった。紙の雑誌全盛期から編集者として活動してきた著者が語る編集、企画に対する今の考えはどれも興味深かった。また既存の価値観との付き合い方という広い意味で捉えれば何かの作り手でなくとも仕事論として楽しめるはず。

 書籍作りの観点から八つの章立てされたインタビューの書き起こしでかなり読みやすい。著者が自身の経歴や担当作品を作るまでに至った経緯を含め丁寧に説明してくれている。どこかに所属していないからこそ歯に衣着せぬ物言いが可能で「おかしい」と思ったことを単刀直入に物申しているところが信頼できる。日本のヒップホップウォッチャーとしては『ヒップホップの詩人たち』の製作時に遭遇した日本のヒップホップのジャーナリズムに対する苦言が村の外側の視点としてオモシロかった。こんだけオモシロくて若者に局地的に人気があるカルチャーなのに内輪ノリが過ぎて外から見て何が起こっているのか分からず苦労したらしい。完全に内輪ノリでウヒヒ言っている側なので何も言えない。日本のヒップホップに限らず常に皆が興味を持っていないけれども熱がある対象を模索し既存の状況に対して怒りながら創作のエネルギーに変換してかっこいい本を生み出していくのだから有言実行とはまさにこのこと。実際、『ヒップホップの詩人たち』は数あるヒップホップ書籍の中でも資料価値は相当高い。

 ネットを中心とした発信者側のハードル低下について、過去を知っている著者だからこその説得力がおおいにあった。今となっては当たり前のサービスに対するありがたみをひしひしと感じた。知の高速道路よろしく表現の民主化が進んで誰しもが表現者になれる時代となって久しいが、それがどれだけ画期的でありがたいのか改めて噛み締めさせられる。また本著を読むと何かを生み出すときの初期衝動に他人は関係ないということを思い出した。自分がやりたいからやる。シンプルだったはずのことが可視化されるアクセス数、インプレッションが目的になってしまう。そうではなく自分がオモシロいと思っていることを信じきれるかどうかが大事なのだった。道に迷ったとき読むと指針になりそうなバイブルめいた良書。

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