缶チューハイとベビーカー/パリッコ |
男性の育児エッセイはいつだって欲しているのだけれども、男性向けの育児ハウツー本や露骨に「育児をする父!」みたいな打ち出し方だと途端に冷めてしまう。本著はその距離感が個人的にちょうど良さそうな雰囲気を感じて読んだらオモシロかった。育児と飲酒、相反するように見えるが、大人が自身の主体性を失うことなく育児と向き合うことを考える上では格好の命題設定かもしれない。
酒場ライターという特殊な仕事をこなしながら日々育児にコミットする様を描いたエッセイ集となっている。子どもは保育園児で卒業前で 4〜5歳頃のエピソードが多い。とにかくいかに飲酒できるか、そのチャンスを探しているのがオモシロい。育児は不確定要素の連発、そんな中で機転を効かせて飲酒する。「けしからん!」と怒る人もいるかもしれないが、前述のとおり子どもに対して滅私奉公し続けていると大人の身がもたない。本著を読むと、そのバランスのチューニングのちょうどよさが随所にみられてほっこりした気持ちになった。
また関東圏で子ども連れのおでかけスポットに関するリアルな意見は見つけるのが意外に難しい中、本著で取り上げられている場所の多くはエピソード付きであり、どういった場所か想像しやすいし実際に調べてみると、どれも良さげでかなり参考になった。
コロナ禍がなくてフル出勤が続く世界線だったら本著を読んでもどこまでも他人事だったかもしれない。しかし現状フルリモートなので著者と似たような生活状況ということもあいまって、育児のコミット量とそれに付随して考えることについて納得する場面が多かった。自分の子どもはまだ2歳ながらも赤ちゃんの頃に比べると相当コミニュケーションが取れるようになり楽しくなってきたところ。言い間違いや懸命にいろんなことにトライする姿勢の数々が眩しい。愛玩的な赤ちゃんのかわいさは当時そこまで理解できなかったものの、今写真で振り返るとかけがいのない時間だったのだなと身に沁みて思う。子育ては「喜び」「大変さ」と「切なさ」でできているという筆者の主張は言い得て妙で、ここ最近「切なさ」を加速度的に感じる。それは子どもの成長ももちろん大きいのだけれど、それよりも子どもが暮らすコミュニティの変化のダイナミックさに感じるケースが多い。30後半のサラリーマンの生活は多くの部分が予定調和で構成されていくが、子どもたちは毎日が新しいことの連続であり、それは嬉しいことも悲しいことも同レベルで起こる。それに対するリアクションがさまざまで切ない気持ちになるのであった…なんていう自分語りもしたくなってしまうほどナイスな育児エッセイ。
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