2022年4月24日日曜日

あるノルウェーの大工の日記

あるノルウェーの大工の日記/オーレ・トシュテンセン

 「ノルウェー 大工 日記」と絶対にGoogleで検索することはないだろう。そういう意味で本著のような本を読むとやっぱり誰かが企画、編集、執筆する本の素晴らしさを感じる。何の変哲もないただの仕事の記録なので人によっては退屈かもしれないが個人的にはとてもオモシロかった。

 著者はこの道25年以上の経験を持つ大工で、ある一家の屋根裏をリノベする仕事について書いている。彼の業務日誌であり、具体的な作業工程、一家との関係性、仕事に対するスタンスなど、徒然なるままに書かれていてグイグイ読めた。そもそも大工の仕事もよく知らない上に、舞台はノルウェーなので知らないことの二乗だけども、それを超越して伝わってくる仕事に対するパッションが最高でとても刺激になった。自分の仕事に対して真摯に向き合い、誇りを持つ。そして計画的にプロジェクトを遂行する。これができれば人生しめたものよ、と思えた。それが簡単なことではないから人生は楽しくて苦しいのかもしれない。

 本著の最大のポイントは大工仕事のディテールについて非常に細かく書いている点だと思う。(相見積から受注、納品まで!)もし仮に仕事に対するスタンスだけ書かれていたとすれば、一歩間違えると安っぽい自己啓発本になってしまうかもしれない。しかし著者は自分の仕事の進め方を丁寧に説明する中でシチュエーションごとに自分の考えを書いているので納得度が高いし、読者側は自らの仕事のシチュエーションと比較して考えることもできる。好きだったラインをいくつか引用。

互いに協力しあう仕事のやり方を学ぶチャンスがなければ、自分に何が足りないのかを知ることもできない。役割が細分化され、それぞれが専門の仕事だけをすることに、皆慣れきってしまっている。

自分の掲げた理想どおりにできないのは、理想が悪いからではない。

経験が教える最も役に立つことは、自分には何ができないか、を知ることである。

 真面目な仕事の話も興味深いのだけど合間に挟まれるノルウェー大工の仕事の風景もオモシロかった。特に食事のシーンでベトナムの人が熱々の昼食を用意するのに対してノルウェーの人は簡単に済ませるといった対比が好きだった。知らない世界はいつも楽しいなと思わされる読書体験。 

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