2021年10月19日火曜日

MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門

MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門/DARTHREIDER

 Kindleでたたき売りされていたので読んだ。フリースタイルダンジョンに端を発してMCバトルが大流行し、1つのカルチャーとして成立した今読むと隔世の感があった。著者の主観とはいうもののど真ん中にいた人なので相当網羅されていて勉強になった。特にUMB初期の情報はインターネット黎明期でアーカイブされている情報はかなり少ない中、このように書籍化されたことは大変ありがたい。

 KREVAマニアックスとしては、MCバトルにおける彼のスタイルの栄枯盛衰についてかなり詳細に語られているだけで読む価値十分にあると思う。音楽としてのスタイルとMCバトルのスタイルの比較でなぜ彼がフリースタイルバトルを辞めたのか、今もやらない理由がよく分かった。

 その後のMCバトルの発展を担った般若と漢の存在の大きさもよく理解できた。彼らはラッパーとしてのアティチュードにこだわりながらバトルに挑んでいるので音源と地続きにいることができた。しかし、バトルシーンが大きくなるにつれて、そこにGAPのあるラッパーが登場して、バトル自体が単なる勝ち負けの競技化していくし、バトルで何を言ってもよい空気になっていく。こういう変化があったことを頭で理解できていたけど、史実ベースで丁寧に解説してくれているのがありがたかった。(ところどころ紫煙ならぬ私怨を燃やしているところがダースレイダーっぽい)

 何よりも最高だったのは表紙にも使われているISSUGI vs T-Pablowのバトル解説。MCバトルそんなに追っかけていないけど、このバトルだけは事あるごとに見返す最高のバトル。何が最高かってお互いのヒップホップイズムを賭けた戦いだから。単純に韻の数、フロウの巧みさだけでは評価できない空気が醸成されていて、どちらも間違っていないし、それぞれかっこいい。2人とも身の丈に合わないハンパなことは言わないし、えぐいラインが両方からバンバン出てくる。こういうバトルが見れるなら、まだまだMCバトルは見たいと思える。

 タイトルが肝であくまでMCバトル史は補助輪であり、直結している日本のヒップホップとの関係性に各章で必ず目配せしている。MCバトルが巨大産業となり音源で構成されるシーンとは別のファンダムが形成されるのに対して筆者がなんとかしてヒップホップという1つのファンダムにしたい意思を強く感じた。(実際、著者がコミットしていたKing of kingsという大会は、その分断に橋をかけようとする試みの1つ)なんだかんだ言ってているものの、やっぱりフリースタイルバトルは新しいラッパーの登竜門であることを歴史が証明しているので、今後もなるべくウォッチしたいなと思えた1冊。 

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