西加奈子が本の表紙の装画を手がけている場合、それはクラシックになるというのが定石なので当然読んだ。やはり今回も弩級の作品であり、相当覚悟をもって書かれたのだろうなということがビシバシ伝わってきてオモシロかった。と同時に著者にこのようなテーマで物語を書かせる今の日本の状況が来るところまで来てしまっているなとも感じた。(カナダへ移住したことで相対的に見えてきたこともあるのだろうか。)
メインテーマは貧困。主人公とその友人アキ、それぞれの貧しく苦しい生活を描きながら日本の貧困の現状を浮き彫りにしていく。読んでいる間、ほぼフジテレビの「ザ・ノンフィクション」を見ているかのような感覚で実在感が強烈にあった。巻末に参考文献がたくさん載っていたので相当取材して書いているのだと思う。
著者は自分が書くべきなのか葛藤があったとインタビューで答えていたように、インターネットを探せば実際の当事者の声を見つけ出すことが比較的容易な世の中において著者が小説家として書くことの意味はどこにあるのか?それは構成と描写の巧みさにあると思う。全然違うタイプの2人を並行して描きながら貧困に苦しむ過程でそれぞれが見る社会の風景は異なり、そこに今の日本における問題を入れていく。それこそ「82年生まれ、キムジヨン」を彷彿とさせる作り。ただあそこまで派手な感じではなくて登場人物を真綿で首を絞めるかのごとく、ひたひたと忍び寄っていく感じで余計にキツく感じた。そして、「すべては自己責任で我慢しなければならない」「逃げたら負け」という信念で生きる辛さがめちゃくちゃ伝わってきた。
また単純な事実ではなく小説だからこそできる脚色があると感じた。特にカッターナイフで腕に傷をつける自傷行為の描写。死にたいというよりも生きることを実感するため、というニュアンスと著者の筆力としかいいようがない表現があいまって単純に事実を知るときよりも何倍も膨らんで自分の中に入ってくる。これぞ小説の醍醐味だと思う。
終盤、主人公の加害性と冷笑姿勢に対して真っ当な意見・主張をぶつける場面があり主人公の事態は好転していくきっかけになるのだけど、ここでの主人公の後輩の長台詞はめちゃくちゃ刺さった。物語全体を通じて展開された今の日本の問題に対するカウンターだから。一方で現実社会でこんなに他人に目を掛けられる人がどれだけいるのだろうか、と遠い目にもなってしまった。1つの希望であり、これから目指していきたい世界のメタファーだとは思うのだけど、何か問題が顕在化しても自浄できない政治をもう10年近く見てきているからかもしれない。著者も同じ感覚を持っているようで、なんだかんだいつも綺麗に物語的なカタルシスに昇華して終えることが多いと思うけど本作はそんな終わり方ではなかった。たとえ自分と関係なくても、いつ自分が当事者になるか分からない。おかしいことにおかしいと言える大人になりたいと強く思った。選挙行こう。
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