きれはし/ヒコロヒー |
本屋でたまたま見かけてヒコロヒーのエッセイなら当然読むでしょということで買った。そしてやっぱりオモシロかった。(ele-king booksからのリリースというのもクソかっこいい。)もともとnoteに掲載されていたものと書き下ろしからなるエッセイ集で、「夏が嫌いだ」という本当に他愛もないこともあれば、彼女なりの芸人論、芸人としてのあり方のような芯をくった話もあったり。幕の内弁当のように硬軟織り交ぜているので読みやすい。芸人のエッセイは玉石混交なのでハズレのときの絶望感たるやなんだけども、文体からビシバシ伝わってくる「文の人」のオーラに飲み込まれて気づいたら読み終わっていた。
僕が感じる魅力は独特の言語センスや強めのツッコミ。テレビやラジオでは後者がフィーチャーされている一方で、この著作では前者が思う存分に発揮されている。世間では「面倒くさい」といわれる類の人かもしれないが、その思考回路を楽しめるのがエッセイであり魅力がフルに発揮されている。まわりくどい言い回しが多くて最初は戸惑うかもしれないけど、その過剰さがクセになる感じだった。特に各エッセイが「〜ないのである」で締めるルーティンのようなものがあり、違う言葉だと「こーへんのかい!」と大きな声で言いたくなる。
エッセイの良し悪しはパンチラインの質と数に裏打ちされるという自説を持っているのだけども、その点でもこのエッセイは最&高。いくつか引用しておく。
お金持ちのおもしろくない、何かがすごいやつと値段の高い飯を食うよりも、貧乏でもちょうどのユーモアがあるやつと腐りかけの野菜をどうやって食べるかを話し合うことの方が、比にならないほど楽しく思う。
些細な希望というもの、あるいは希望のようなもの、を、自分でせっせと見つけ出し掬い上げてはまた檻へと苦行をしに舞い戻っていく。希望さえなければこの人生はどれほど簡単だったのだろうかと考えることは、絶望することにもよく似ていた。
色々と考え込んでしまう人間を「こじらせ」とか「メンヘラ」とか何かと簡単な言葉で片付けようとするクソな世界に中指を立てながら、自分の身の周りについて、いつまでも考える人生こそが豊かであると言っても過言ではないのである。
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