生命式/村田 沙耶香 |
友人から一昨年にレコメンドされていた1冊。著者の作品を読むのは「コンビニ人間」以来だけど今回もギア全開でめちゃくちゃオモシロかった。上田岳弘しかり、SFと純文学の狭間を描いている作家はどれ読んでもオモシロい。本作は人体をテーマにした短編集でタイトルにもなっている「生命式」が本著の初めを飾る短編。いきなりカニバリズムをメインテーマに据えた話で度肝抜かれた。カニバリズムの話だとグロなイメージを持つと思うけど、あくまで一素材としての「人間」という扱いになっているのが興味深い。おどろおどろしさなど皆無で人肉を食べることが「当たり前」の社会を描いている。「コンビニ人間」もそうだったけど、世界の常識や当たり前に対する違和感をひたすらに追求していく姿勢がとても好き。カニバリズムという突飛なテーマだけども、それはエンタメとして強調するための要素であって、これを身近なテーマに置き換えると自分が寄りかかっている常識や当たり前がぐらついていく。このゲシュタルト崩壊に近い感覚を味わえるのが楽しい。
本作に収められてる短編には完全なSFテイストの作品と日常を妄想で拡張していく2つのパターンがある。後者でコロナ禍の今読むと味わい深かったのは「パズル」だった。生き物としての人間に愛をもち、満員電車に乗ることが好きで人の吐瀉物にさえ愛情をもつ女性が主人公。彼女がオフィス街全体を人間として捉えてそこで働く人間は臓器なんだという考えはコロナ禍の今だとオフィス街は死んでいることになり、それは言い得て妙だなと思えた。さらにエンディングが一種のサスペンスみたいになっているのも斬新。
多様性も1つのテーマになっているのだけど、分かり合えなくてもそれぞれを尊重しようよ!というスタンスは1つの解決策として妥当だなと思える。(夫婦別姓制度なんてまさにそれ)一番濃厚に出ているのは「素晴らしい食卓」という短編。それぞれが食いたいもの食えばええやん!という話なんだけど、虫食い、サプリ飯、お菓子ばかりの偏食という三者の並びがオモシロすぎるし何かもかも分かった風に浅いユニティを強調することの虚無さが最後にぶち込まれてて震えた。僕らは何もかも分かり合えると思い過ぎているのか、というペシミスティックな気持ちにもなった。そして最後の「孵化」という短編では人の持つ多面性を無機質に描いていて人それぞれの多様性×一個人の多面性=世界は無限ということを突きつけられた気がする。凝り固まった固定概念をときほぐす小説としてはベスト。
0 件のコメント:
コメントを投稿