死ぬまでに行きたい海/岸本 佐知子 |
翻訳家の岸本佐知子氏のエッセイ集。土地や場所にまつわるエッセイが収められている。訪れたことのない場所へ訪れて感じたことを書くタイプと思い出の土地にまつわるタイプの大きく分けて2つのタイプがある。前者はエッセイとして王道ながらも着眼点が全然人と違う。多くの人が気にも止めず覚えてもないし、ゆえに忘れられることもないだろう世界についての話をしているのがオモシロかった。世界をどれだけ微分できるかでエッセイの魅力は決まると思っていて、著者の世界の捉え方はとてもオモシロかった。そしてまさにそれを象徴するかのような文章があったので引用しておく。厨二病!と笑うのは誰でもできるが、この考え方はインターネットの大元の思想だと思うし僕がブログで日記を書いているのもこの思想に由来している。
この世に生きたすべての人の、言語化も記録もされない、本人すら忘れてしまっているような些細な記憶。そういうものが、その人の退場とともに失われてしまうということが、私には苦しくて仕方がない。どこかの誰かがさっき食べたフライドポテトのことが美味しかったことも、道端で見た花をきれいだと思ったことも、ぜんぶ宇宙のどこかに保存されていてほしい。
後者の思い出に関しては旅行の話(上海、バリ)がオモシロかった。その土地に対するイメージが著者が旅行した当時と今で全く異なっていて、ちょっとしたタイムスリップ気分を味わえる。その一方で時代は進んでいくし、今この瞬間も日々刻々と過ぎ去って2021年の空気が作られていくのだなというセンチメンタルな気持ちにもなった。それは合間合間に挟まれる著者自身がスマホで撮影した無機質で最高な写真も影響しているのかもしれない。
0 件のコメント:
コメントを投稿