2020年2月18日火曜日

フライデー・ブラック

フライデー・ブラック/ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー

  2018年にリリースされたアフリカ系アメリカンによる短編集。短編集は収録されている中でどれか1つグッとくるのがあればナイス、音楽でいえばアルバムみたいなものだと思っている。この観点で言えば、どれもが珠玉の短編ばかりでハズしなしのクラシックアルバムだ。アフリカ系アメリカンへの暴力や資本主義という名の下の新たな奴隷制度による彼らに対する搾取。それらからインスピレーションを受けた物語の数々は心の深いところをやすやすとエグってくる。巻末の藤井光の解説にもあるように日常を少し変化させただけにも関わらず、一気にディストピアと化してしまうことを描いている。そんな今の社会はどうなんだ?という問いを突きつけているようにも思えた。
 どのエピソードも好きなんだけど、とくに表題作とHow to sell Jacket as Told by IceKingの鏡像関係がめちゃくちゃ好みだった。前者は買い物客をゾンビに見立てたSFで消費欲をコミカルに描いて、後者は同じ舞台で極めてリアリスティックな資本主義下における仕事をシビアに描いている。行き来して読みたくなる短編は初めて読んだ。SF作家と読んでも差し支えないくらいに想像力が豊かな物語が多い。帯にKendrick LamarのTPAB、GambinoのAtlantaが引用されてるけど、それよりもNETFLIXで見れるBlack Mirrorに近いと思う。こういったタイプの物語の場合、アイデア自体がオリジナルなものか、既出の舞台設定だとしてもどれだけ新鮮なものを見せれるか?でオモシロさが決まってくると思う。この高いハードルをやすやすといずれの短編でも超えてきている。エンタメとして抜群にオモシロいのだ。ここまで述べた複数の要素が絡み合うことで今まで味わったことのない満足感のある読後感に繋がっていると感じた。本の冒頭にあるKendrick Lamarの言葉(School Boy Q - Blessed にfeatで参加したバースからの引用)は忘れないで生きていたい。

0 件のコメント: