ある一生/ローベルト・ゼーターラー |
オーストリアの山岳に住んだある男の人生についての小説。1人の男の生活ひいては人生を粛々と書いていて好きなタイプだった。同タイプの小説として分類されるだろうストーナーも最高に好きだけど、本作はさらに流れている時間が静謐というか描写が淡々としていた。恵まれない生い立ちからフィジカルの強さを生かして自分の生活を作っていく過程やある女性との出会いと悲劇、戦争に巻き込まれた期間があったり。21世紀に生きる読者からするとドラマティックに思える。インターネット以降、自分がどういう人間なのかを相対化しなければいけない場面が多い。しかし、この主人公は自分の価値観を絶対としているのがかっこいい。ひたすらに山を愛しながら、山に愛されたり裏切られたりする人生。自然に対する諦念も彼からはひしひしと感じる。自分自身がぶれまくりなので、こういう信念を強く持っている人に憧れる。終盤に達観する描写が清々しくもあり苦しくもあり、何とも言えない気持ちになった。以下引用。
雪解けが始まるころ、小屋の前の朝露に濡れた野原を歩き、あちこちに点在する平らな岩の上に寝転んで、背中に石の冷たさを、顔にはその年最初の暖かな陽光を感じるとき、エッガーは、自分の人生はだいたいにおいて決して悪くなかったと感じるのだった。
20世紀前半~後半にかけては主人公のような人生がたくさんあったのかもしれない。過剰にドラマティックでなくても他人がどういう人生だったのかを知ることはとてもオモシロいと思っている。どこかで見たような盛り上がりが用意された汎用的なドラマではなく、どこまでも個人の物語、そこでディテールを語ることが実は一番オモシロいことの証左のような作品。
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