ギケイキ3: 不滅の滅び/町田康 |
11月から読み始めて一気に3冊目まで突入ということでサクッと読了。歴史小説にここまでハマる自分がいるとは想像もつかなかったし、すっかりこの世界に夢中になった。個人的には割と原典至上主義なところがあるけれど、ここまでいくと二次創作に無限大の可能性しか感じない。当然、原典の魅力もあることは理解した上で、他人の解釈も楽しければそれでいいじゃない、と本著のおかげで寛大になれた気がする。
完全に撤退モードに突入した義経サイドの苦しい戦いについて綴られている第三巻。雪の中を必死のパッチで逃げ続ける過程はこれまでに比べるとシビアなシーンが多い。しかし持ち味である関西弁による脱力したゆるーい会話で楽しく読めるようになっている。また義経のあと語り形式によるメタ化は読めば読むほど癖になってきた。特に今回は当時の鎧、兜などの服装を現代のファッション雑誌での紹介のように描写しているシーンがお気に入り。落伍者として貧乏くさい格好になってしまう展開もあるので余計に美しいお召し物シーンが際立っているように感じた。またこのメタ構造があることで著者の考えを逆説的に浮かび上がらせていく手法が見事だと思う。例えばこんな風。
持続可能性のある社会を目指せ、などと言う人は、現状、いい目をみていて、それを維持したい人で、現状、食うや食わずの悲惨な目に遭っている人は、「もうなんでもいいから、現状を変えてくれ。いくらなんでもいまよりはマシなはずだ」
美しく歌ったところで、根底にあるものは同じ。私は美しい言葉を弄ぶ奴の心の奥底で常に銭と欺瞞のフェスティバルが開催されていることを知っている。
後半は彼自身のエピソードではなく家来や周りの人たちの話で構成されているのが興味深かった。語り手としての義経はいる一方で、不在の彼がどういう存在なのか、周囲の言動で浮かび上がらせていく。そういった観点で本著のハイライトはエンディングを飾る静による頼朝御前でのギグであろう。音楽が当時の人にとっても、いかに心の安寧をもたらすものであったか。それを現代バンド風アレンジで大胆に描いている。この得体の知れない多幸感は著者自身がバンドの経験があるからこそ書ける音楽の醍醐味だと思う。次の第4巻で完結するらしいので楽しみ。というか古事記も同じ手法で書かれているそうなので、そっちを先に読む。
0 件のコメント:
コメントを投稿