資本主義リアリズム/マーク・フィッシャー |
高橋ヨシキ氏がインスタでポストしていたのを見て読んだ。2009年にリリースされた論考集なんだけど全く古びていなくて現在の社会の在り方について理解が進んだ。2022年の今でも事態が大筋では変わっていないことがとにかく辛い。2008年ごろに始まったことが悪い方向へさらにシフトしているのかとネガティブ思考に陥る一方で著者はカウンターの出し方を提示してくれていて少しは勇気ももらえた気がする。
タイトルの「資本主義リアリズム」は資本主義が完全に世界をテイクオーバーし現実的には資本主義が最強でしょ?というネオリベ的世界観のことを言っている。本著では資本主義ひいては新自由主義が躍動する世界で何が起こっているのかを丁寧に紐解きながら、当たり前に受け入れている資本主義に対する懐疑的な姿勢を示すラディカルな本。こないだの参議院選しかり最近選挙に対するモチベーションが極端に落ちていて、それはあきらめの感情が渦巻いていることが原因だと思う。著者はそれを再帰的無能感と呼んでいてしっくりきた。
彼らは事態がよくないとわかっているが、それ以上に、この事態に対してなす術がないということを了解してしまっているのだ。けれども、この「了解」、この再帰性とは、既成の状況に対する受け身の認識ではない。それは、自己達成的な予言なのだ。
著者の特徴としては語りの中にポップカルチャーを混ぜ込んでいる点だと思う。相当硬い話なんだけど、自分が知っているカルチャーが論考に混ぜ込まれていると理解が深まる。さらに著者のポップカルチャーへのそのまなざしの鋭さにうなりまくりだった。特に「ボーン」シリーズの記憶にまつわる取り扱いを引きながら、現在の社会における一種の記憶障害的事象(日本でいえば「記憶にございません」)を語っているパートは圧巻だった。
個人的に一番辛かったのは冷笑主義に対する論考。著者は官僚主義の中で隷属している人間は冷笑主義を身につけてやり過ごしているのであると喝破していて、それがまさに自分だなと思ったから。冒頭で話したあきらめは冷笑主義に近づいている気がして、どこかで変えなきゃいけないと思っていたのだけど、そもそも人生の大半を過ごしている会社でそんな態度取ってたら政治や社会に対して建設的な対応なんてできるはずないよなと。冒頭の諦めの気持ちの由来がわかって勉強になった。
本著で語られている内容を全部理解できたかといえばそれは難しい。けれど当たり前に受け入れているものが当たり前ではない可能性を信じる。オルタナティブがあるのでは?と模索し続ける姿勢を忘れないでいたい。
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