2021年4月14日水曜日

サブリナとコリーナ

サブリナとコリーナ/カリ ファハルド=アンスタイン 

 西加奈子の裏表紙コメントに惹かれて読んでみたら、とてもオモシロかった。著者はチカーノ系でデンバー在住らしい。多くのアメリカの小説や映画を見てきたけど、この組み合わせの風景を見たことがなく新鮮だった。デンバーと聞くとなんとなく山間部みたいなぼんやりしたイメージしかなかったけど、ここにもジェントリフィケーションの波が訪れていて、その風景が何度も出てきたので生まれ育った筆者としては相当思うところがあるのだろう。
 本作は短編集でどの話もハズレなしでかなり完成度が高い。そして本作の最大の特徴はどの短編も女性が主人公で、しかもそれが大体二人という点だと思う。友人、家族とさまざまな女性同士の関係性を描きながら、その結果として男性の不在を描き出し彼女たちが社会でストラグルする姿がカッコよくて魅了された。物語として大きな展開はそこまでないものの何気ない風景描写が多く、生活がそこにある感じがしてぐいぐい引き込まれる。個人的には「ここで終わるの?」みたいな断絶タイプのオチが好きなんだけど、この作品はドヤ感を抑えつつ良い雰囲気でしっかりオチがついていて好きだった。これは訳者の方の力だと思う。全体にかなり読みやすい訳でもあった。
 タイトルになっている「サブリナとコリーナ」は傍若無人だったあいつが自死してしまったその後と過去の関係を描いている作品。よくある設定だけど人物描写が丁寧でまるで映画を見ているようだった。好きだったのは「チーズマンパーク」という短編。カルフォルニアからデンバーへ出戻りした女性が階下の女性と仲良くなっていく過程が微笑ましいなと思っていたら思ってもないエンディングを迎える。愛されたり、愛したりの関係について短編でこれだけ考えさせられる点がオモシロかった。最後にその短編から引用しておく。

「世界が変わったのよ。あんまり差し迫った感じがしなくなって、なんとなく広がって、そしてあたしは、愛されてるのだろうかってことをあんまり気にしなくなったの」 

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