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時をかけるゆとり/朝井リョウ |
小説は読んだことあるものの、エッセイを一度も読んだことがなく、友人の勧めで読んでみた。大学生作家から社会人作家へと移行していくフェーズで書かれた一冊で、ザ・大学生的なエピソードに気恥ずかしさを覚えつつ、文章におけるギャグセンスの高さはさすがだった。
小説家としての日常ではなく、学生としての日常について書かれたエッセイが多く収録されている。大学生もしくは社会人の早い段階で読めば「あるある」として楽しめたのかもしれないが、三十後半のおじさんからすると、他人の大学生の頃の「オモシロエピソード」ほど聞いていてイタい気持ちになるものはない。そして、読んでいると自分の大学時代を当然のように想起、恥ずかしくなり死にたくなることも多かった。若くして作家になると、このような文章が公に残ることもキツいだろうなと察する。実際、その気恥ずかしさを少しでもマイルドにするために、過去のエッセイに脚注を入れて相対化していたので、著者も同じ気持ちを少なからず抱いているように思う。
個人的に一番オモシロかったのは、著者の就職活動に関するエピソードだ。『何者』のBehind the scenes にも見えるし、著者の就活エピソードのどれもがユニークでオモシロい。学生が社会と接続していくことについて、これだけ瑞々しく書ける人はそうはいないはずだ。前述のイタさと引き換えにして、若くして解像度高く、ものを書けるようになった著者の魅力が最大限に発揮されているとも言える。また、終盤にある直木賞受賞時のエッセイは他のエッセイと別ベクトルで、著者の小説を彷彿とさせるエモーションに溢れるもので好きだった。本著の続編となる『風と共にゆとりぬ』も積んでいるので読む。
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