海と山のオムレツ/カルミネ・アバーテ |
本屋でピックアップした新潮クレストブックスの冊子に載っていてオモシロそうだったので読んだ。(最近食べ物の本ばかり読んでいる気がする…)今井麗氏の鮮やかすぎる表紙からも伝わってくるように最高な食事の本だった。こないだ読んだピッツァ職人もあいまって猛烈にイタリアに行きたい…
短編小説集となっているが実態としては私小説でほぼ実話と思われる。著者が育ったイタリアでの食事を中心にそれと付随する記憶をイタリア料理のコース仕立ての構成で綴っている。イタリア郷土料理の旨そう過ぎる描写の連発に読めば読むほどお腹がどんどん空いてくる飯テロっぷりがハンパない。小さな子どもが思春期を経て大人になる過程を食を通じて描いていくという構成が新鮮だった。全体にポジティブなトーンが本全体を支配しており「美味しい食事があればすべてOK」とよく言われるように食べることは幸福に直結することも実感した。
著者は故郷が大好きで、その料理を含む風土を愛していることがビシバシ伝わってくる。そんな彼に対してキーパーソンであるアルベリアのシェフことフランクの存在が印象的だった。彼は故郷の料理を得意としているものの、それに縛られるのではなく自分の家族と未来を作っていくことを促しているから。いつまでも変わらない味を求めるのと同じくらい自分たちで新たな味を作っていくことの大切さ。実際、彼のパートナーはイタリア人だったり仕事の都合でイタリア、ドイツを転々としておりこれを実践していた。料理に限らず普遍的な真理だなと思うし自分もそうありたい。以下フランクのセリフを引用する。
どこへ行っても、その土地特有の味というものがある。いくつもの異なる土地で暮らすうちに、きみの舌にはものすごく豊かな味覚が養われるだろうよ。大切なのは、自分たちの土地の味に、新たな味を加えていくことだ。根っこの部分に郷里の味があるかぎり、別の場所で暮らしていても、その土くれの香りは失われないはずだ。
同じくクレストブックスで既に何冊か長編小説がリリースされているようなので、そちらも読んでみたい。
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