悲しみの秘義/ 若松英輔 |
ネットで本を買うことが多いのだけども、たまに本屋でノリで買う本が大事だと思っている。本著がレジ前に平積みされていて、装丁・タイトルに惹かれて買った。色々なタイプのエッセイがある中でも詩を取り扱っているからか読んだことないタイプのエッセイ集でオモシロかった。
組版が独特で文庫にしては大きく余白を取っている。各章すぐに読めそうなものの、たっぷりの余白よろしくじっくり読ませてくる独特の文体が心地よい。日経新聞の夕刊で連載されていたらしく、邪推だけども紙面の都合によって字数を削られたことで、より洗練された文章になっているのかもしれない。
毎回詩やエッセイなどを引用しつつ著者の考えが展開していくのだけど、読み手を静かにエンパワメントしてくれる絶妙な塩梅が好きだった。特になるほどと思ったのは読むことの創造性にまつわる話だった。コンテンツとして「消費する」のではなく「見る」「読む」「聞く」という行為が何を為すのか改めて考えさせられた。またタイトルにもある「悲しみ」に関する論考も興味深かった。悲しいときに人の感情は「悲しさ」だけに閉じておらず「愛しさ」「美しさ」といった感覚へ広がっていく。そういった感情の波紋の中で生きていくことの豊かさや辛さが読んでいるあいだに何度も去来した。たとえ世間でネガティブだとされても自分のフィルターで捉え直すことの大切を知った。
悲しみは、自己と他者の心姿を見通す眼鏡のようにも感じる。悲しみを通じてしか見えてこないものが、この世には存在する。
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