2022年10月24日月曜日

THE MARATHON DON’T STOP THE LIFE AND TIMES OF NIPSEY HUSSLE

 

THE MARATHON DON’T STOP THE LIFE AND TIMES OF NIPSEY HUSSLE

 英語の勉強の一環として、英語で本を読むということ自分に課して読み始めて読了…内容どうこうより読了できたことが素直に嬉しい。Kindleの辞書機能があってこそなので電子書籍に感謝。そして読了できたのは何よりもNipsey Hussleというラッパーの魅力が存分に発揮されているから。これは邦訳したら絶対に当たる、と自信を持って言えるほどにめちゃくちゃオモシロかった。

 いわゆる自伝もので幼少期から亡くなるそのときまでを膨大な本人素材、関係者の証言を基に描き出している。個人的なNipsey Hussleの思い出といえば、やはりmixtape。まだストリーミングサービスが始まる前、USのヒップホップシーンではmixtapeという形で無料のアルバムをリリースしてて名前を上げていくカルチャーがあった。その中でNipsey Hussleはクオリティの高い部類にあり自分としてもよく聞いていた。その後、他のラッパーに比べて熱心に追いかけないままVictory Lapを聞き、かっこいいなと思う程度の思い入れだったけど、本著を読んでめちゃくちゃ好きになった。普段USのヒップホップを聞くとき、ビートの質感やラップのフロウを楽しみ、次にリリックという感じだけど、さらにアーティストのバックグラウンド、周辺情報を踏まえて聞くだけでこんだけ響きが変わるのかと思うと最近の音楽に関する「消費」速度の速さは勿体ないことをしているのかもしれない。

 本著では表面的なキャリアを追いかけるのではなく、なぜNipesy Hussleが他のラッパーと比べても偉大な存在なのか?を丁寧に解きほぐしているところが最大の特徴。たとえば彼はギャングカルチャーの中で育ったので、LAにおけるギャングカルチャーの成り立ちを解説していたりする。そこには丹念な取材の成果があり、読み進めれば進めるほど読者がより身近に彼を感じられるようになっている。

 タイトルにもあるように彼には人生におけるコンセプトがあり、それがTHE MARATHON CONTINUES、略してTMC。とにかく続けていく、そしてパッションを失わないことが何よりも大事だと繰り返し伝えている。それを自分の人生、キャリアで証明していくのがカッコ良すぎる。よく聞くHIPHOPの成り上がりストーリーかと思いきや彼が特異なのはその時間。自分のやりたくないことや、自分のコントロール下におけないことについて一切妥協せず、ひたすらDIY、仲間およびHoodへの還元を求めて走りつづけて最後にはしっかり成功する。しかも最初のスタジオアルバム(ミックス、マスタリングを施したアルバムの意)のタイトルがVICTORY LAPなんて粋すぎる!

 「仲間、Hoodに還元する」ことはヒップホップカルチャーのベースにある考えだと思うけど、Nipseyのスタイルは規格外でビルを買ったりHoodの子どもたちがSTEM(Science, technology, engineering, and mathematics)へアクセスしやすくなる環境を用意してギャングのカルマから抜け出せる仕掛けを用意したり。ラッパーというよりアントレプレナーに近いものがあり、キャリア初期でJay-Zがfeelして彼のCDを10,000ドルで買ったのも納得できる。そして彼が示したヒップホップにおけるビジネススタイルはここ日本でもBADHOP、ZORNなどに大きく影響を与えていると思われる。

 ヒップホップの自伝ものといえば、とにかくサイドストーリーが最高に楽しい。XXLのフレッシュマンのカバー撮影で黒の衣装を着用するようお願いされるものの青を貫き通す話、Curren$y が保釈中のNipseyをステージに上げてラップさせた話、リリース前の”Rap Niggaz”を聞いたDiddyからお前のサウンドには鳴りが足りないよと”Natural Born Killaz”を聞かされる話、Straight Outta ComptonでSnoop役をオファーされるも自分は音楽で何者にもなれていないから断った話など挙げればキリない。ヒップホップを愛しヒップホップに愛された男なんだなということがビシバシ伝わってきた。実際、JAY-ZとSnoop Dogという東西両巨頭にこれだけ愛されたラッパーはいないと思う。

彼は自分の店の前で射殺されてしまうのだけど当時の状況について目撃者の証言、裁判での展開などを交えてかなりスリリングに描いていて、ここは一種のサスペンスのような迫力があったし既に亡くなっていることは分かっているものの強烈な喪失感に襲われた。全く当事者性の無い日本の読者でこの気持ちになるのだったらHoodのみんなは一体どれほどの悲しみに包まれたのだろう。曲の中で自分の葬式のときの話をしたりしているのを聞くと、そういうところでもvisionaryだったのかと。。。最後にプロデューサー・エンジニアのRalo Stylezの言葉を引用する。

It’s not even a Marathon no more. It’s a relay. Nipsey definitely passed the baton to a lot of people. He empowered a lot of people.

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