2021年9月15日水曜日

ジェネレーション・レフト

ジェネレーション・レフト/キア・ミルバーン
 狙いすまして読みたい本を読むのもいいのだけど、セレンディピティを期待してブクログ徘徊してたときにジャケとタイトルにピンときて読んでみた。世界の若者が「左傾化」している背景と経緯を丁寧に説明してくれていて興味深かった。年齢で区切るのはそれは多様性の否定なのか?という疑問もあるけども、現状やはり世代間格差は1つの大きなイシューであり、どうしてこうなった?という点がクリアになった。きちんと文献に基づいた議論がされているので大丈夫だとは思うものの、納得できたのは自分が比較的左寄り志向だからなのかもしれない。タイトルを見たときには世代のデモグラを分析しているような内容なのかなと思っていたけれど、それよりも今の社会が歴史を踏まえてどういう状態なのか、解きほぐしたのちに見えてくる世代の議論という話が多くて何よりもそれが勉強になった。世界全体の潮流に日本も巻き込まれていて、自分が日々感じている政治や社会に対する違和感をズバリ言い当てられたような感覚。

 資産を持っている老人たちはその収益率を最大化したいが、若者たちは手元のお金がないのでまず目の前の所得の向上させたい。こうした物質的利害の相違からして世代で物事を考える妥当性を著者は主張している。そして2008年の金融危機をきっかけとして2011年に各地で若者によるデモが発生、それが左傾化の波であった。なぜ左傾化するのか?その原因としては新自由主義が社会の隅々までに浸透したことに対するカウンターだという見立てだった。この新自由主義への論考が目から鱗の連発だった。以下引用。

単なる経済体制ではなく、社会的および政治的な可能性を収縮させることによって人々の生き方を支配する統治モデルなのである。

 自己責任論によってすべては各人の責任とされることで、意識がデフレ化されて社会的な連帯がうまれにくい、つまり政治家たちにとってはコントロールしやすく都合がよい状況が続いているというのはドンズバで今の日本だなと思った。(さらにその各人が右傾化しているのだが。)

 2011年に起こった左寄りのデモの数々が、実際に選挙結果にも影響を与えた例が紹介されていて勉強になった。USだとAOCの台頭はNETFLIXでドキュメンタリーを見て知っていたけどギリシャやスペインでの左派躍進は全然知らなくて希望を持てた。日本でもSEALDSなどの活動が同様に社会を変える結果を出せれば、もう少し事態はマシになっていたのかと思うと切ない気持ちにはなるけど…

 またアセンブリーの概念が興味深かった。効率的な意思決定を目指してコンセンサスを取るというよりも1人1人が現状を持ち寄り体験を語ることで社会の課題を浮き彫りにしていくスタイル。USの映画とかで見る互助会に近い感覚だろうか。全員が同じ方向をむくのは難しい時代なのは間違いないからこの概念には納得できたし、「アヴェンジャーズ エンドゲーム」の決定的なシーンでも使われていたので時代を象徴する言葉なのかも。

 最終章は若者と大人のギャップに関する全体的な考察でかなりオモシロかった。歳をとると保守的になるのは自分自身の意識と社会全体の意識との相対的なものであり、何も気にしないでそのままいると置いてかれてしまう。これは最近骨身に沁みてきたので気をつけたいところ。またインターネット、デジタルテクノロジーがデフォルトの若者にとっては所有の概念が低いし、そもそも所有できるだけの所得がない。それに対して大人たちが培ってきた、私有財産を持つことが成人の証という古い価値観を打破していかねばならないというラディカルな主張も興味深かった。(会社で人に情報をまったく出さないタイプの人いるけど、シェアの概念が受け入れられないのは資産保有してきた世代だから当たり前なのか?)

 点と点が線でつながり脳内でスパークする感じはブルシット・ジョブを読んだときの感覚と近い。忙しいと抽象的なことを考えるのを後回しにしてしまいがちだけども、こういう本を読んで刺激を受けつつ自分の考えや意見を持ち、思考し続けたい。

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