砂の女/安部公房 |
壁を学校の教科書で読んで以来に読んだ安部公房。エンタメとして抜群にオモシロかったし社会批評文学としても一級品だった。時代を超えて残っているからこその強度がある。昆虫採集を趣味にしている教師が主人公で、彼がそれを趣味にしている動機は新種を自分で見つけ出して自身の名前を刻もうと考えている。この設定にやるせなさがある。当然自分の好きな仕事につければいいけど、つけていないケースの方が相対的に多い。そんな中で趣味に没頭して少しでも自身のやりがい/尊厳を満たそうとするところに泣けてくる。また先生という職業に対する徹底的な冷めた目線の残酷さが強烈…以下引用。
じっさい、教師くらい妬みの虫にとりつかれた存在も珍らしい……生徒たちは、年々、川の水のように自分たちを乗りこえ、流れ去って行くのに、その流れの底で、教師だけが、深く埋もれた石のように、いつも取り残されていなければならないのだ。希望は、他人に語るものであって、自分で夢みるものではない。彼等は、自分をぼろ屑のようだと感じ、孤独な自虐趣味におちいるか、さもなければ他人の無軌道を告発しつづける、疑い深い有徳の有徳の士になりはてる。勝手な行動に憧れるあまりに、勝手な行動を憎まずにはいられなくなるのだ。
自分が辛いからお前が楽しむのは許さないという、よく見かける負のループをここまで言語化しているのがかっこいい。(当然だけど教師に限った話ではない)お話の舞台が砂の穴という世俗から隔離された過酷な環境でそこから放たれる上記のような社会批評がいいスパイスになっている。話の基本は牢獄からの脱走ものなのでKUFUして何とか逃げ出そうとする展開は当然オモシロい。蟻地獄をメタファーなく砂を使いまくって描き切るこの胆力よ。あと話のオチも想像してない角度で驚いた。こんな自己顕示欲をコントロールできない人間が陥る末路として怖すぎる…たくさんのLessonが含まれている優れた文学。
0 件のコメント:
コメントを投稿