2022年7月23日土曜日

プロジェクト・ヘイル・メアリー


 
プロジェクト・ヘイル・メアリー/アンディ・ウィアー

 アンディー・ウィアーの新作と聞いて読んだ。SFの中でも比較的王道な中で著者独自の設定、バイブスがふんだんに盛り込まれていてとてもオモシロい。彼の一人称スタイル、カジュアルでブログのようなストーリーテリングに今回も魅了された。

 前半は過去と現在を交差させながら描写していくのだけど、主人公が記憶喪失状態からスタートしており、過去のエピソードが紹介されると、その記憶を取り戻す設定が新鮮。起きたら謎の空間に自分がいて、そこからリバースエンジニアリングのアプローチで環境に適合していく姿は、前作「火星の人」でみた主人公と重なる部分があった。特に今回、主人公が学校の科学の先生という設定が良い。大学の専門機関で超プロフェッショナルを極めた人間ではなく、地球上の科学全体に対して総合的に理解をしているのは学校の先生なのでは?という見立てが興味深い。さらに未来そのもの、つまり子どもたちと日常的に接し彼らに対して責任を持っている人間だからこそ持つ覚悟。当然訓練されていないので弱みを見せる場面はあるものの、そこも含めて人間らしさを感じて主人公に感情移入しやすかった。また人類が滅亡するかもしれない理由として宇宙人侵略ではなく、太陽光の減衰、しかもその原因が謎の微生物。こうやって聞くと地味なんだけど、その特徴へ対処していく過程は人類が発達させた科学における実験そのもの。

 本作の最大の見どころは後半のロッキーとのバディ展開だろう。インターステラーのTARSを彷彿とさせるゴロっとした質感の異星知的生命体との邂逅、協力、別れ、再会。どのシーンも胸が躍りまくりでめちゃくちゃ楽しい。この設定に加えてアンディ・ウィアー節ともいえる宇宙でのDIY活動があいまって加速度的にオモシロくなっていた。ここまでディテールの細かい話を想像で描いていくSF作家、ひいては人間の想像力の逞しさのようなものさえ感じた。一作目未読なので次はそれを読みたい。

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