三体 死神永生 |
中国SFの大きなうねりの中心に位置する三体三部作の最終巻。前作がハッピーエンドと取れなくもない終わり方だったので、どんな話になるか想像つかなかったけど超絶怒涛で最高にオモシロかった。スペースオペラという言葉がふさわしい作品。
前作で描かれた面壁人作戦の裏で走っていたもう1つの作戦から物語は始まる。本作は合間合間に別視点をいくつか挟むものの、基本は程心という女性の主人公の視点で進んでいく。前回は楽観的なボンクラのルオ・ジーが面壁人として活躍したが、今回は悲観的なボンクラの雲天明が登場。安楽死というセンシティブなテーマにリーチしつつ儚い恋物語、まるで織姫と彦星のような関係で物語の最後まで駆け抜けていくところがオモシロい。序盤も序盤で雲天明が悲しすぎる形で宇宙へ射出されて、まー当然伏線回収あるんでしょうねと思いながら、いつくる?!と期待しながら読んでしまう。その理由としては前作の後半よりもキツい絶望があるから。水滴の暴力性は三体から直接もたらされたけど、今回は被支配下で起こる人間同士の嫌な部分が出てるから。しかもオーストラリアの中心部の砂漠エリアでキャンプしたことがあるので、その頃のことを思い出して何とも言えない気持ちにもなった。
安楽死やジェンダー論といった現在進行形で議論が続いているテーマへの言及、配慮があるのも興味深かった。SF作家が未来を提示する仕事だとすれば著者は見事に仕事をまっとうしていると思う。さらにコロナ禍という平時ではない今、刺さるのは全体主義の話。地球外生命体が登場したときに全体主義が簡単に蔓延すると語られているのだけど、それはまさにコロナという人類共通の敵との戦いにおいて何度も見かけたので実感を伴って理解できた。
結果的に進歩を諦める心が人類を危機に追い込んでいくわけで、向上心は大事だし未知の何かにトライする姿勢を忘れてはならない。過去作に比べて何度もこの点が強調される点が印象的だった。ただテクノロジー無敵!と言い切らない良さもあり、よくこんなこと思いつくな〜という著者の想像力の果てしなさにただ脱帽するしかなかった…エンジニアに出自があるにせよ、どういう脳みそしてたらこんなことを思いつくのか?
あとエンタメ好きとしてアガったのは物語のアナロジーが世界を救う鍵となっているところ。何かを見たり読んだり聞いたりしたときに作者の意図を読み解く。これはエンタメの楽しみ方の1つだと思うけどガッツリ物語内の物語のメタファーを登場人物たちと一緒に考えるという仕掛けがユニークでオモシロかった。そこから二重三重の仕掛けと展開が用意されていてマジでスケールがデカ過ぎて上巻含めて過去二作も置いていかねない勢いだった。リアルタイムに読めたことが何よりも嬉しく数十年後に「三体で言ってたことが現実に!」と言える時代がくるのか。ここから著者の過去作のリリースも続くそうなので他のも読んでみたい。
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