2025年7月26日土曜日

THE DIALOG AND SOMETHING OF SCANDINAVIA 北欧記録

THE DIALOG AND SOMETHING OF SCANDINAVIA 北欧記録/10 years later

 先日来、何回か登場しているcommon houseという本屋を経営するお二人は、10 year laterという名義でZINEを作成しており、先日お店に伺った際に購入した。旅行記は臨場感があってオモシロく、何よりお二人の人柄を感じるような文章がZINEならではだと感じた。

 2023年6月に訪れた北欧三カ国(フィンランド、デンマーク、スウェーデン)の旅行について、日記形式で綴られている。旅行記のZINEというと、カラー写真もりもりで、その横に軽くテキストが添えられている、みたいなイメージを持っていた。しかし、本著はむしろその逆で、文字でびっしり埋まっており、たまに写真という構成。活字中毒者としては、最高だった。また、リソグラフ印刷による独特のざらりとしたテクスチャーが、プライベートな旅情と絶妙に噛み合っていて、「自分もリソグラフで何か作ってみたい」と思わされた。

 最大の特徴は二人で書いている点だ。同じ一日でも、それぞれ別の視点で日記を書いており、これが新鮮だった。読み進めるうちに、同じ一日の描写の違いから、それぞれのキャラクターが浮き彫りになっていく様が興味深かった。当たり前だが、同じものを見たり、食べたりしていても、それぞれ感じ入るものは異なるし、ときに重なることだってある。こうした二重の視点によって、二人の旅がより立体的に浮かび上がってくるのだ。

 旅行にいく場合、そこで何を大事にするかの価値観はそれぞれだ。二人はわかりやすい観光地にいくというよりも、その街の生活に身をおいて体験することに重きを置いている。私もどちらかと言えば二人のスタンスに近く、卒業旅行でヨーロッパに訪れた際、その価値観ですれ違い、気まずくなったことを思い出した。

 旅行記ではあるが、単純な記録というよりも、旅行を通じて何を思い、何を考えるか、にウェイトが置かれている点も読み応えがあった。今は本屋を経営されているが、本著を作ったタイミングでは二人で何かを模索している最中だったようだ。巻末にあるポッドキャスト的な二人の会話の文字起こしは、三十代になると抱える「自分は何者で、どうやって生きていくのか」という問いに真摯に向き合っていて興味深かった。

 また、このタイミングで読むとSayakaさんによる以下のラインが刺さった。エコーチャンバーありきの今の社会において、少しでも気を抜いていると自分の世界に凝り固まり、偏った見方をしてしまう。そんなとき、旅行は自分の世界、見識を広げる貴重な行為だなと改めて考えさせられた。こうも暑いと家にばかりいがちだけども、書を捨てよ町へ出よう!(クーラーの効いた自室より)

自分の今いる場所だけが世界ではないこと、自分とは違う色んな人がいること、色んな暮らしがあること、色んな文化や言葉や慣習があること、知らない場所や言葉に心細さや苦労を味わうこと、人それぞれの喜びや悲しみやストーリーがあるということ。人生の中でそれらを知っていくことは、自分という人間を作っていく中でとても大きいことなんだろうと思う。

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