2025年7月8日火曜日

LIFE HISTORY MIXTAPE 02

LIFE HISTORY MIXTAPE 02/菊池謙太郎

 一冊目も圧倒的にオモシロかったLIFE HISTORY MIXTAPEの第二弾。『日本語ラップ長電話』を文学フリマで販売していたときに、著者の方が帰り際にわざわざ声をかけてくださり、ありがたいことにZINEを交換させていただいた。今回もいわゆる媒体のインタビューでは拾いきれないラッパーの語りがふんだんに収録されていて興味深かった。

 著者の方が「ラップスタア」というヒップホップリアリティショーのディレクターということもあり、そのコネクションをおおいに生かした人選のラッパーインタビュー集となっている。したがって、同番組の副読本といっても過言ではない。

 「ラップスタア」はリアリティーショーであり、そのラッパーがどういった出自なのか重要視される傾向がある。「ヒップホップは音楽のコンペティションである」という主張は理屈としてはわかるものの、一方で「どの口が何言うかが肝心」であり、一人称の音楽である以上は、その出自と楽曲は不可分であることは事実だ。それゆえ、どういった境遇だったか知ることで楽曲自体の厚みが増すケースは往々にしてあり、本著はその役目を担っている。

 すべてのインタビューが2023〜2024年に行われており、番組を通じて注目されたラッパーたちの「その後」に触れることができる点もオモシロい。皆が自分の人生と向き合いながら、それぞれのスタイルでラップと向き合っている様子が伺い知ることできて興味深い。各人の今の状況を見ると、リアリティショーで結果が出ても、それを生かすも殺すも当人次第だと改めて感じた。

 特筆すべきは、前作同様、「貧困からのサクセスストーリー」といった型通りのナラティブに収まりきらない人生が、丹念に掘り起こされている点だ。インタビューの文字起こしも、ラッパーたちの話し言葉のニュアンスを極力残そうとする姿勢が伝わってきた。AIによる自動文字起こしが一般化しつつある今だからこそ、こういった生の言葉が持つラフな輪郭と強度は、より一層意味を帯びてくるだろう。

 登場するラッパーたちは若い子が多いので、必然的に子どもの頃の話が多く、それらがトリガーになって自分の子どもの頃を思い出した。特にKVGGLVのインタビューで語られる「不良への生半可な憧れを持つことの危うさ」という話は、ガラの悪い場所で育った自分としても身につまされるものがあった。また、娘を持つ父親という立場では、彼女がどういった人生を生きるのだろうかと考えさせられた。

 ラッパーである彼ら、彼女らがヒップホップにどれだけ人生を救われたのか、直接的な言及がなくても伝わってくる点が素晴らしい。音楽を使って自己表現できることの豊かさとでも言えばいいのか。前作でも感じたが、境遇を問わずラップを書くことが一種のセラピーとしての機能を果たしているようだ。

 個別の話をすればキリがないものの、個人的に冒頭のKen Francisのこのラインはかなりくらった。

自分のために自信を持とうとは思わなかったんですけど、俺がそのせいでグレてんのを見てる親とか友達とかが悲しそうだったんで。自信持ってると周り喜ぶし、みたいな。みんなのバイブス上がるから自信持てるようにしてみたら楽しくなってきましたね。高校生ぐらいから。

最も鮮烈な印象を残すラッパーはTOKYO Galだろう。ヒップホップを聞いていると、リリックやインタビューで不幸な生い立ちを知ることがあるが、本著で話されていることは数段ギアが違っており、番組で放送されていたのは氷山の一角だった。次のNowLedgeのインタビューと流れで読むと、社会の実相を反映しているとも言える。インタビュー自体は収録した時系列で並んでいるようだが、ミックステープゆえの「順番のマジック」が起こっていた。

 最近はアングラの若手のラッパーの曲をたくさん聞いている中で、リリックのユニークさ、鋭さに驚かされることが多く「彼らにどういうバックグラウンドをがあって、こんな曲を書いているのか知りたい!」という好奇心が尽きない。それゆえ、今年の「ラップスタア」で誰がエントリーしてくるのか、今からとても楽しみにしているし、著者がそんな将来有望な若手ラッパーたちに聞き取りしてくれる日を心から楽しみにしている。

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