2025年7月14日月曜日

今の自分が最強ラッキー説

今の自分が最強ラッキー説/前田隆弘

 文学フリマで買いそびれていたが、立ち寄ったSPBSでゲット。先日読んだ『死なれちゃったあとで』がオモシロかったので読んだわけだけど、やっぱりオモシロかった。この簡素なジャケット、タイトルから、見た目ではなく中身で勝負するんだという気概を感じた。

 「生きている今の自分が最強ラッキーで、アンラッキーだった場合はもう死んでる」という論理が本著のタイトルの由来らしく、その観点で見た過去の出来事に関するエッセイ集となっている。前作も読んでいて感じたが、過去の出来事に対する解像度がとても高くて、まるでこないだあったことかのように、数十年前のことをイキイキして語られている。まるで落語を聞いているようだ。

 本を読んでいて声を出して笑うことはそんなにないが、本著は笑いどころがたくさんあった。実際にオモシロいかどうかと、文字にしてオモシロいかどうか別物であり、著者はその極意を心得ているように映る。実際、このようなことが書かれていた。

会話では「その場限りの揮発性の高い盛り上がり」というのがある。会話を円滑に進める、雰囲気を良くするという意味では大事なのだけれど、しかし言葉そのものに力はない。文字にしてしまうと、取るに足りなさがあらわになってしまう。

擬音、改行、「ですます調」と「である調」のスイッチなど、文体の工夫によって、これだけ文章に躍動感が出るのか!とブログをたらたら書いている身としては勉強になった。

 東京ポッド許可局のコーナーの「忘れ得ぬ人々」というコーナーを想起させるようなエッセイがたくさん載っている。コーナーの紹介文を引用する。

ふとしたとき、どうしているのかな?と気になってしまう。自分の中に爪跡を残している。でも、連絡をとったり会おうとは思わない。そんな、あなたの「忘れ得ぬ人」を送ってもらっています

この観点で見ると、バイト先、職場におけるエピソードが特に好きだった。いずれも仕事場限りの関係性にも関わらず、関係の密度は高い。自分の人生に大きな影響を与えているにも関わらず、仕事場から離れると関係性が終わってしまう。人生は出会いと別れで構成されているのだなとしみじみした。

 人生が無数の選択の積み重ねで構成されていることは考えれば当たり前なのだが、本著を読むと自分の人生の分岐点を今一度考えさせられる。過去の出来事を思い起こす場合、だいたい辛かったことや恥ずかしかったことである。本著の考え方に沿えば、それすらも何か自分の人生の糧になっている。だから今の自分が「最強ラッキー」という考え方は、下手な自己啓発的思想よりもよっぽど自分の人生において役立つに違いない。

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